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「どうして薩摩なんだ」
土方は隣を歩く近藤に訊ねた。
「薩摩は会津藩と組んで政変を成功させたんだ。今や同盟関係にある」
「そんなことは分かってる。なぜ会津公に呼ばれたのに、薩摩藩邸に向かっているのかと訊いているんだ」
「知らないよ。容保様の指示なんだ」
二人は連れ立って烏丸通りを北へ進んでいる。
薩摩藩邸は御所のすぐ北側に位置する。
三日前の八月十八日、会津藩は薩摩藩と組んで政変(八月十八日の政変)を起こし、長州とそれに与する七人の攘夷派公卿を京都から追放することに成功した。
もはや京は、長州の支配下にはない。
今や、会津と薩摩が牛耳っているのだ。
「どうも妙だな」
土方が首を傾げる。
「ちゃんと伝えたのか、容保様に」
「何を」
「不逞浪士が一掃された今、我々を尽忠報国の士に戻してほしいと」
長州の過激派浪士が京から駆逐された今、取り締まり対象がいなくなり、市中見回りの必要性が消えたのだ。
「言ったさ。そしたら薩摩藩邸に呼ばれたんだ」
「どうも解せねえ」
「まあ、行ってみりゃ、分かることさ」
近藤は言って、さらりと話題を変える。
「そんなことより歳さん、本当に良かったのか」
「何が」
「お琴さんを帰しちまって」
土方は上京したお琴を拒絶し、江戸へ戻した。
お琴は、江戸の薩摩藩邸での奉公を辞めて京へ来たので、帰っても居場所がないと訴え、どうかおそばに置いてほしいと泣いてすがったが、土方は頑として受け入れなかった。
「いいも悪いも、他にどうしようもねえじゃねえか」
「攘夷の決行まで、しばらくこちらで夫婦の真似事をしてみる手もあったと思うがなあ」
「馬鹿言え。そんな酷なことができるかよ」
怒ったように言って、ずんずん歩く速度を高めた。
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