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「ああ、充分に承知した。薩摩藩屈指の使い手、辺見新十郎の剣をかわすとは、あっぱれでごわす」
大久保はそう言って、陣羽織の男の方へ視線をやった。
辺見新十郎は一礼すると、配下の者たちを促し下がっていく。
容保と大久保が上座に座り、土方と近藤はそれと向かい合うように正座した。
近藤は太刀を右側に置くと、すかさず口を開く。
「我々の腕がお分かりいただけたところで、再三申し上げている件をご検討いただきたく存じます」
「何のことかな」
容保はとぼけるように問い返す。
「我々は尽忠報国の士として、異国の軍艦と戦うために京へ上って参りました。攘夷戦のための準備や砲撃の訓練に時間を割かせていただきたい」
「お願いいたします」
近藤と土方は深々と頭を下げる。
容保はしばらく思案するように黙したあと、
「分かった」
と大きく頷いた。
「その代わり、そちらも襟を正していただきたい」
「襟を正す……と申されますと?」
近藤が訊く。
「局長の芹沢鴨なる者が市中でゆすり・たかりを繰り返しているそうではないか。左様な者が会津藩御預かりを名乗っていることに、こちらとしてはほとほと閉口しておるのじゃ」
「以後、改めさせます」
近藤は謝するようにこうべを垂れる。
容保は少し柔和な顔に戻り、
「今日その方らを呼んだのは、今までの関係性を見直そうと思ってのことなのだ」
土方と近藤は顔を上げる。
「いつまでも壬生浪士組では聞こえが悪かろう。壬生狼などと噂されているようでもあるし。そこで新しく名前を付けて出直してもらおうと思う」
「名前……でございますか」
「そうじゃ。……新撰組というのはどうじゃ?」
「新撰組……」
土方と近藤がほぼ同時に言った。
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