1

4/10
前へ
/98ページ
次へ
「ああ、充分に承知した。薩摩藩屈指の使い手、辺見新十郎(へんみしんじゅうろう)の剣をかわすとは、あっぱれでごわす」  大久保はそう言って、陣羽織の男の方へ視線をやった。  辺見新十郎は一礼すると、配下の者たちを促し下がっていく。  容保と大久保が上座に座り、土方と近藤はそれと向かい合うように正座した。  近藤は太刀を右側に置くと、すかさず口を開く。 「我々の腕がお分かりいただけたところで、再三申し上げている件をご検討いただきたく存じます」 「何のことかな」  容保はとぼけるように問い返す。 「我々は尽忠報国の士として、異国の軍艦と戦うために京へ上って参りました。攘夷戦のための準備や砲撃の訓練に時間を割かせていただきたい」 「お願いいたします」  近藤と土方は深々と頭を下げる。  容保はしばらく思案するように黙したあと、 「分かった」  と大きく頷いた。 「その代わり、そちらも襟を正していただきたい」 「襟を正す……と申されますと?」  近藤が訊く。 「局長の芹沢鴨なる者が市中でゆすり・たかりを繰り返しているそうではないか。左様な者が会津藩御預かりを名乗っていることに、こちらとしてはほとほと閉口しておるのじゃ」 「以後、改めさせます」  近藤は謝するようにこうべを垂れる。  容保は少し柔和な顔に戻り、 「今日その方らを呼んだのは、今までの関係性を見直そうと思ってのことなのだ」  土方と近藤は顔を上げる。 「いつまでも壬生浪士組では聞こえが悪かろう。壬生狼(みぶろう)などと噂されているようでもあるし。そこで新しく名前を付けて出直してもらおうと思う」 「名前……でございますか」 「そうじゃ。……新撰組(しんせんぐみ)というのはどうじゃ?」 「新撰組……」  土方と近藤がほぼ同時に言った。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加