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「新しく撰ばれた組と書いて新撰組。よい名であろう」 「はっ」  またしても同時に発声した。 「これを機に、会津藩とはこれまで以上に緊密な連携をとってもらうこととなる」  二人は感悦を覚えた顔で、瞳をほころばせる。 「そこで、先程の件が問題となってくるわけじゃ」 「……と申されますと?」 「芹沢じゃよ。芹沢鴨なる人物じゃ。ああいう反抗的な人間は非常に困る」 「はあ」 「だいたい局長が三人もいるようでは、命令系統が混乱をきたす。こちらとしても、誰に話を通せばよいか分からない」 「どうせよと仰るのですか」 「局長は近藤さん一人でいいということですよ」 「……はぁ」  と首をかしげる。 「私はねえ、近藤さん。あなた一人に新撰組を取り仕切っていただきたいんです」 「ですが……」  と、近藤が何か言いかけるが、土方はそれを遮り、 「承知いたしました、容保様」  と、うやうやしく頭を下げる。  近藤は戸惑った顔で土方を見る。 「そうか、分かってくれたか」 「はい」と土方  容保は相好を崩し、 「今日は無礼な振る舞いをして済まなかった。会津名物の茶菓子でも食して、ゆるりとしていかれよ」  そう言うと、手をぽんぽんと打ち鳴らす。  襖が開いて若く美しい女中が盆を手に入ってくる。土方と近藤の前に茶と茶菓子を置いた。  近藤は一礼して茶に手を伸ばそうとして、ふと女中の顔を見る。  その瞬間、ここが薩摩藩邸であることも忘れ、思わず素っ頓狂な声を発した。 「お、お、お琴さん!」  江戸へ戻ったはずのお琴である。  土方も彼女に気付き、 「なぜお前が……」  あまりの事態に狼狽し、上擦った声を発した。  お琴はシレッとした顔で、 「坂本先生からご紹介していただいたのでございます。以前、江戸の薩摩藩邸でご奉公していたことを申し上げたら、それなら京の藩邸に知り合いがおるからと」
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