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土方は苦笑しながら、
「まあ、お互い女の話はよそうじゃねえか」
「それがいい」
笑い合って再び屯所へと足を向ける。
空には雲一つない青空が広がっている。
近藤は大きくひとつ、息を吸い込むと、
「新撰組かぁ」
上空を見上げて詠嘆するように言った。
「いい名だなあ。尽忠報国の士にふさわしい」
松平容保に命名してもらった新しい名前がすっかり気に入っている様子だ。
「これからは立派な名に恥じぬよう、規律を重んじ、ゆすり・たかりのような真似は厳に慎まねばならぬ。戻ったらさっそく芹沢さんに言って、態度を改めてもらおう」
その瞬間、土方の足が止まる。
「はあ?」
小首を傾げ、強張った顔で近藤を見つめる。
「何を言ってるんだ」
「いや、だから、芹沢さんに襟を正してもらうよう二人で迫るんだ。攘夷に邁進できるとなれば、芹沢さんだって街中で暴れる理由はないはずだ」
「あんた、何を聞いてたんだ。容保様は、局長は一人でいいと言ったんだぞ」
「分かってるよ。でも芹沢さんが、はいそうですかと局長の座を簡単に降りるわけがない」
「当たり前だ」
「だったら、襟を正してもらって」
「そうじゃない」
土方は激しくかぶりを振ると、鋭い眼差しで盟友を見据えた。
「容保様がおっしゃった意味は……芹沢を、殺せってことだ」
「な、なんだと……」
近藤の目が、驚きのあまり極限まで見開かれる。
「ば、馬鹿なことを言うな、歳さん」
土方は周囲を見回し、近藤の袖を掴むと、人気のない路地裏へと連れ込んだ。
近藤を睨みながら、
「容保様は暗にそうおっしゃったんだ。分からなかったか」
「芹沢さんが態度を改めてくれるなら、なにも殺す必要はないだろう」
「あいつが態度を改めると思うか?」
「きちんと腹を割って話し合えば……」
「甘いよ、近藤さん。芹沢がいる限り、新撰組は奴に振り回され続ける。俺たちの思い通りにはならない。違うかい」
「しかし……」
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