災いの魔法使いの再来

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災いの魔法使いの再来

第5話  実技試験を受けた会社から、採用結果が送られてきた。 「なんでよ」 採用結果通知書を要約 【実技試験の結果は、正解率100% 残念ながら、今回は不採用となりました】 落ちた理由が分からない採用結果の書かれた用紙。 「これは何か理由がありそうだな。僕が少し調べてみよう」 「うん、ありがとう」 「たべゆ」 シロは自分にだされた朝食のパンをアリスに差し出す。 「シロ、あんたがいてくれて、良かった」 天気予報の会社に応募しても、面接すら出来なかったアリスが、それでも諦めないでこれたのは、シロがいてくれたからだ。 そして、面接までたどり着けないアリスに、実技試験を受けれる会社を紹介してくれたのが、リチャード。 2人の存在がアリスの中では、いつの間にか家族以上の、何にも代えがたい宝物。  リチャードは早速、実技試験から受けれると教えてくれた、天気予報の会社に勤める知り合いを訪ねて、不採用の理由を問いただす。 リチャードに恩のある知り合いは、自分も理由を知って、申し訳ない気持ちだからと、教えてくれた。 理由は男爵家が娘のアリスの採用を猛反対したことが原因。 他の天気予報会社にも、連絡がいっているはずだから、応募しても無駄たろうと言われた。 「はああああ」 アリスは終わったとばかりに、大きなため息をはく。 実はもう一つ、知り合いから聞いた話しがあるが、アリスには伝えていない。 アストリア男爵が、娘の空色の髪と瞳は水害を起こした魔法使いと同じで、災いの元だから、関わるなと言っていたらしい。 リチャードは、アリスに初めて会った時、どこかちぐはぐな印象を受けた理由が分かった。 令嬢のように荒れていない手足や真っ白な肌、それに反して手入れをしていない髪。 下品ではないが、上流階級の人間が使うとは思えない言葉使い。 それらは、長年家族から放っておかれた証拠。 リチャードは、アリスの生きてきた15年間を思って胸が締め付けられる。 しかもアリスは、家族のことをひと言も話さないばかりか、恨み言や愚痴さえ口にしない。 我慢強いからか、それとも愚痴や恨み言を言える相手さえいなかったのではないか? 今は、シロがアリスの側にいてくれたことだけが救いだ。 ◇◆◇  男爵家からの妨害を知って、身動きの取れなくなったアリスと、アリスの生い立ちを知ったリチャードは、どんよりと重い空気をかもし出している。 「てんきする」 重い雰囲気を打ち破って、シロが突然、天気宣言をした。 「天気するって、雨を降らせたりするってこと?」 シロの能力を知っているアリスは、シロの真意を推し量って通訳する。 「てんきいるひといる」 「何て言ってるんだ?」 リチャードは、シロの言っていることが理解出来るようになってきたが、アリスほどではない。 「う~ん。雨が降って欲しい人には雨を降らせてあげようみたいな」 「シロがそんな深い話しを?」 見た目や話し方が赤ん坊のようなので、リチャードは話しのギャップについていけない。 でもアリスには、シロが、ただの赤ん坊の魔物とは思えない。 出会った頃から、窓の外の空しか楽しみがないアリスが、雨でどんよりしていたら、能力を使って天気にしてくれた。 強盗にあった時も、気を付けるように合図を送ってくれたのに、注意出来なかったのはアリスだ。 気絶したアリスの側にいてくれて、リチャードファンの女の子たちからも守ってくれているのも本当は気が付いていた。 「うん。シロと一緒なら何でも出来る気がするよ」 その白い雲のような体を抱っこして、頭を撫でる。 「しかたあいの」 「生意気なのよ」 「何だって?」 リチャードが通訳を求める。 「アリスは仕方がないから、シロが面倒みてやるみたいな」 通訳をしながら、シロの頬を両手で左右にビヨーンと引っ張っている。 「いたいの」 シロも負けじと腕を2本出して、アリスの頬を左右にビヨーンと引っ張っている。 「ぷ、あはははは。君たちって本当に、面白いコンビだな」 「ないない」 「これは分かった。コンビじゃないって言ったんだな」 リチャードが、クイズを当てるみたいに答える。 「何言ってんのよ。あんたの相棒は私しかいないでしょ」 パーン 白い頬を左右に引っ張っていた手を離す。 「ふんなの」 「じゃあ、お店が休みの日に街に出て、天気に困ってる人がいないか探すわよ」 「あい」 ◇◆◇  今日はパン屋が休みなので、街中を歩いてみるとリチャードに伝えると、お弁当を作り始めた。 「待たせたな。こっちがアリスの分で、こっちがシロの分な」 ピンクとブルーの生地に包まれたお弁当を手渡される。 「ありがとう」 アリスは包みをショルダーバッグに入れて、その上にシロをのせる。 「行ってきます」 「いてくの」 シロはショルダーバッグの中から、リチャードに手を振っている。 「ああ、いっておいで」 リチャードは2人の頭を順番に撫でた。 アリスはリチャードの整った顔を間近に見て、またドキドキしてしまう。 「じゃあね」 アリスはリチャードにドキドキして、手足をギクシャクさせながら、パン屋の脇にある出入り口から外に出る。 「さて、どこから回ろうかな」 『天気変更希望者求む』と言う旗を持って歩き始める。 「天気変更お手伝いします」 声を出しながら街を歩くが、誰一人声をかけてこない。 「雨を降らせてもらえるかしら?」 1日歩き回って、やっと1人のご婦人に声をかけられる。 「雨ですね。ここの周辺に雨を降らせましょうか?」 アリスは、初の依頼人だとニコニコ顔で対応する。 「この花壇に、雨を降らせてくれたらいいのよ」 鉢植え5個分程の、家に設置された小さな花壇。 「じぶんでやれなの」 「何ですって」 シロの当然の言葉に、ご婦人は逆ギレする。 「シロ、我慢して。すみません。お任せください」 これも成功への第一歩だと、花壇の水やりを引き受けた。 「ふん、自分から雨を降らすと言っておいて文句を言うなんて、まったく」 文句を言われながらも、花壇の脇に置いてあるジョウロを手に取って、水道から水を汲んで、花壇に水をかける。 こうして、天気を変更するまでもない依頼を解決しながら、1ケ月が過ぎた。 その頃から、街中でアリスを水害を起こした災厄の魔法使いの再来だと言う噂が出回り始める。 アリスを狙う黒幕は誰だ?
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