プロローグ

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プロローグ

 人々が逃げ惑い、叫び声が飛び交っている。窓からは炎が立ち上るのが見え、村は混沌と化していた。  サリー村は高い木の柵に守られており、普段は施錠もされている。しかし王の軍の前においては、そんなものは軽く破壊されてしまったーーいわゆる奇襲だった。  村が眠りについている時間を狙い、あっという間に制圧された。そして村人たちは捕らえられ、村長の家には王直属の騎士が大勢の兵士を連れて上がり込んできた。  アンジェラはまだ十歳。母の腕に抱かれ、冷静に様子を伺っていた。今までこんなことはなかった。みんな平和に暮らしていたのに、いきなりどうしてーーそう思った時、母がアンジェラを抱く力がさらに強くなった。 「女神の力が宿ったというのは、その娘だな。さぁ、すぐにこちらに渡すんだ」  低く、威嚇するような声が響く。 「ち、違います! この子は何の力もない、普通の子です!」 「嘘をつくな。知っているんだ、村長の一番目の娘が力に目覚めたということをな」 「だ、だとしても! 今までのようににいらっしゃればいいこと! なぜこのようなこと……!」 「王は其方たちが、我が国以外の占いを引き受けていることに憤りを感じていらっしゃる。其方たちは我が国民のはずなのに、何故他国に情報を売る? おかしいだろう」 「そ、そんなことは……」  否定しようとした母の声が小さくなる。アンジェラは母の様子から、男性が言っていることが事実なのだと悟った。 「王はその力を王のため、国のために使われることを望んでいるのだ。そのために、娘を王宮で何不自由なく過ごさせると申している。貴様の所業を寛大にお許しになり、娘を手厚く迎えると言っているのだぞ。そうすることで、この国と村の平和は保たれる。何をそんなに拒むのだ」  突然奇襲をかけて村を襲った奴の言う平和なんて、たかが知れてる。しかしこのままではたくさんの死者を出すことになるかもしれない。  アンジェラは唇をギュッと噛んだ。私が行けば、誰も不幸にはならないはすーー。 「さぁどうする?」  母の手が震えている。村を守るか、アンジェラを守るかーーその腕の温かさから、母の愛情をしっかりと感じ取ったアンジェラは、顔を上げて母の顔を覗き込んだ。大粒の涙を流し、嗚咽を堪えている。もうそれだけで大丈夫と思えた。 「アンジー……?」  アンジェラは声の主の方を睨みつける。面長で目が細く、やけに鼻が高い男は、冷たい視線わアンジェラに向けていた。
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