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「 私の脱走計画を手伝ってほしいの」
「はっ……脱走? でも君が脱走をしたらーー!」
「村が壊滅させられる。その通りよ」
「ならば……」
「でも、もし私と村が同時に消えたらどうかしら?」
トーマスは目を瞬いてから、訳がわからないといった様子で頭を押さえた。
「消えるなんてこと、簡単にできるはずがないじゃないか」
「そうよ、だから私たちは六年かけて準備をしてきたの」
アンジェラは立ち上がると、机の引き出しを開けてベッドまで持ってきた。それから中身をひっくり返してから二重底を取り外す。驚いてベッドに駆け寄ってきたトーマスに、底に隠されていた大量の手紙を差し出した。
「これは?」
「村にいる母とのやりとり。晴れた日に鳩を飛ばしてね、こっそりやりとりを続けたの」
「こんなに……よくバレなかったね」
「この宮殿は隔離されていて、メイドが一人、朝と晩に出入りをするだけ。昔は塀の四方に見張りがいたけど、最近はそれも見なくなったわ。まぁ大人しく、従順に過ごしてきた、努力の賜物ね」
トーマスはアンジェラに笑顔を向けると、手紙に目を通していく。
「なるほど……君と村人が、同時に脱走をするということか。もしかして昼間に塀のそばにいたのって……」
「そうよ。六年かけて掘り進めてきたトンネルが、とうとう開通間近なの! とはいえ、村の方はすでに開通してるみたいだけど。まぁこっちは一人だし、仕方ないっちゃー仕方ないんだけど」
「あの……これを見る限り、つまり君たちは村を捨てるってことなのかい?」
「えぇ、その通り。そのためにみんないつでも引っ越しができる準備を進めてきたんだから」
「移住先は? もう目星はついているのかい?」
「海を渡るつもり。そうすればきっとモライが追ってくることは出来ないでしょう?」
トーマスは手紙をじっと見つめ、何やら考え事に耽ってから、手を叩いてアンジェラを見た。
「ハーランに来るのはどうだろう」
「あなたの国へ? でもバレたら、それこそ戦争が始まるかもしれないわよ」
「国境や首都に近ければね。でも国の西側の山奥に同じような村を築けば、きっとモライの手は届かないと思う」
それはありがたい提案だった。アンジェラが動くのにも限界があるし、何より頼れる伝がない。それに比べて一国の王子であるトーマスなら、さまざまな面で援助を受けることは可能だろう。
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