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「それはすごく助かるわ。ありがとう。ところでそろそろ遅いし……トム、あなた、今夜はどうするつもり?」  問いかけられたトーマスの顔が、突然真っ赤に染まる。そしてやけにソワソワし始めた彼を見て、頭で何を考えているのかピンと来た。  あらやだ、私ったら何か勘違いさせたみたい。でも今の会話で、私が誘惑するような言葉があったかしら? 「違うわよ。寝るところはあるのかって聞いたの。それとも、このまま国に帰るの?」  自分の勘違いに気付いたのか、トーマスは咳払いをしながら目を伏せた。  彼の国からここまでは、早くてもニ日はかかるだろう。ということは、この辺りに寝床を確保しているはずだ。 「実は君が水浴びをしていた湖の近くに洞窟を見つけて、そこで休もうと思ってる」 「まぁ、一国の王子が洞窟で野宿? なかなかワイルドでいいじゃない」 「わ、ワイルド……?」 「でも良かったわ。ここであなたに貸せる部屋はないのよ。だって私しかいないはずなのに、使った形跡があったらまずいでしょ?」  アンジェラが宮殿を留守にしている間、マーナが何をしているのかはわからない。とにかく静かに、何も疑われないように過ごすことで疑惑の目を逸らし、脱走するための準備をしやすくする必要があった。 「先ほどのメイドは朝も来るのかい?」 「えぇ、八時きっかりにね。それから一時間ほど滞在してから王宮に帰るわ。一応私付きのメイドだし、いろいろやってもらうこともあって。あの人、喋らないけど仕事は早いから助かるの」 「なるほど。では続きはまた明日に」 「えぇ、マーナが帰ったら湖に向かうわ。そこで合流しましょう」  トーマスは頷くと頭を下げ、部屋から出て行った。  アンジェラはため息をつくと、ベッドにバタンと倒れ込んだ。なんだか怒涛の時間だったわね……まさかハーランの王子が部屋に侵入するなんて思いもしないじゃない。  だけどお陰で形勢が変わって来たわ。私たちの計画の成功率が高くなったことだけはわかる。だがまだ油断してはいけない。  それにしてもトーマスは、一体いつ、どこから侵入したのかしら。そこのところも聞いておかないと気が済まないわ。  アンジェラはベッドサイドのランプの灯りを消すと、布団に潜って目を閉じた。
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