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「ところでトムは、この場所のことをいつ頃知ったの? それにどうやってここに侵入したのかも気になるわ。場合によっては警備は厳重じゃないという証明になるわけよね」  焼き上がった魚を受け取ったトーマスだったが、彼女は瞳が笑っていないことに気付き、怖気付いたように下を向く。それでも感じるアンジェラの視線にとうとう負け、トーマスはため息をついた。 「二ヶ月ほど前だよ。それから王宮の偵察を行いながら、ようやくこの場所を見つけたんだ。ところでアンジー、君はここがどこだかわかっているかい?」 「どこって……マルカ国でしょ?」 「そうじゃない。マルカ国のどこにあるかということだよ」 「そうね……森の中なのはわかる。それにマーナが一日に二回、王宮との間を往復出来る距離感でしよ……」  だいぶ考えてから、 「王宮から歩いて三十分くらいの森の中」 と、ドヤ顔で言い切る。 「残念、はずれ」 「じゃあなんなのさ。知ってるなら教えなさいよ」 「聞いて驚かないでくれよ。ここはね、王宮の庭園のすぐ裏なんだ。しかも王宮の敷地内」  アンジェラは固まった。周りに王宮の姿は見えない。なのに近場であるはずがないのだ. 「……ちょっと言ってる意味がわからないんだけど……王宮の敷地内? でもここから王宮は見えないわよ」 「周りを高い木で覆われているからね。だから低い土地からは、高い建物が見えないんだ」  トーマスの言葉を受け入れることがなかなか出来ない。それをするということは、自身の頑張りを否定することになる。 「……だとしたら、私が六年かけて掘って来たトンネルは……?」 「残念だけど、王宮内に出るだけ。もっといえば、三メートル先には、王宮を囲む頑丈な塀が立ってるし」 「じゃあ私が今まで頑張ってきたことって……」 「言いにくいけど、無駄な作業だったかなと」  アンジェラは食べていた魚を放り投げて、頭を抱えて地面に突っ伏した。 「そ、そ、そんなことってある⁈ すごく頑張ったのよ! 来る日も来る日も泥だらけになって掘り続けたのに……」 「うん。お疲れ様。でもきっと動物たちの通り道にはなるかもしれないよ」 「動物たち……そんなことのために掘ったんじゃないわよ……。うぅっ、どうせ無駄な作業だったし、これで私が逃げる術は無くなったも同然ね……」 「そこで諦めちゃうのかい? 私と取引をしたのに」 「……じゃああなたが助けてくれるとでも?」  すると魚を完食したトーマスが、不敵な笑みを浮かべた。
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