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「君とサリー村をこの国から引き離すことは、我が国にとっても願ったりなことなんだ。だからそこに手を貸すことは何も問題はない」
トーマスが言うと、アンジェラは小さく息を吐いた。
「もし自分のために占いをしろと言うのなら、それは飲めない約束だわ」
トーマスは驚いたように目を見開いたが、何やら納得したように頷いた。
「なるほど。そういう取引もできたのか。でも安心してくれ。私はむしろ、その占いはなくなったほうがいいと思っている」
「あら、それは意外」
「そうかな……でも私は関係のない人々が、国家間の戦いに巻き込まれるはあってはならないと思うし、そんなことで誰かの命が奪われるなんて絶対に許されないんだ」
彼の瞳は真っ直ぐに前だけを見ていて、出会ったばかりのアンジェラでも、彼の心根の美しさに気付くことが出来た。
きっと彼は国や国民のことを想いながら過ごしていくに違いない。彼に愛された人々は幸せだろうと、アンジェラは心から思う。
「……トムって、すごく熱い人だったのね。そこまで自分の信念を持っている人だとは思わなかった。でも本当にその通りだと思う。私は王の私利私欲のために人生を奪われた当事者だからこそ、心からそう感じるの」
ただ宮殿に閉じ込められ、趣味は読書。一日を森と宮殿を往復するだけの日々。食べ物も安全に食べられず、おかげで自給自足に関するテクニックは身についた。
でもこれは普通の女の子の生活じゃないーー可愛い服を着たり、恋の話をしたり、親とケンカして仲直りをすることだって、アンジェラには叶わぬ願いなのだ。
「これは力を受け継いだものにしか伝承されない秘密なんだけど、あなたを信頼して教えてあげる」
「えっ、そんなこと話しちゃっていいのかい⁈」
「大丈夫。どうせこの力は私の代で終わらせるつもりだったから」
アンジェラは何か吹っ切れたかのように微笑んだが、言葉の意味が理解できなかったトーマスは眉間に皺を寄せ、首を傾げた。
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