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 事態が急変したのは、その日の夕刻だった。マーナの到着を知らせるベルの音が響き、いつものように宮殿に戻ったが、明らかにいつもと様子が違っていた。  食事の匂いは全くせず、代わりに数名の人の声が響いている。マーナ以外の人間がここに立ち入るのは、占いの準備をする新月の日だけと決まっていた。  新月は三日後のはず。なのに何故ここに人が集まっているのだろうーーアンジェラは異質な空気を感じ取りながらも、深呼吸をしてから笑顔を作り、ダイニングへと向かう。  ドアを開けると、そこにはマーナを含む五人のメイドが並んで立っており、アンジェラを見るなり無表情のまま頭を下げた。 「皆様、こんばんは。今日はどうかしたのかしら……新月は三日後のはずでしょう?」  マーナは顔を上げるなりアンジェラをじっと見つめ、それから口を開く。 「いえ、新月は本日でございます」 「そんなはずはないわ。だって……」  きちんと日数を数えていたのだから、今日であるはずがないーーそう思いながら窓まで駆けて行き、空を見上げる。 「嘘……今日が新月……? どうしてーー」  その時、アンジェラの頭にある記憶が蘇る。それは二週間ほど前のこと。目が覚めた時に体と頭がやけに重く、動くことがままならなかったのだ。風邪を引いたわけでも、前日に不摂生をしたわけでもない。しかしその日は珍しくマーナが一日中宮殿にいて、アンジェラの世話をしてくれた。もちろんありがたいことではあったが、少し不気味さも感じていた。  あの時は新月が近いわけでもないし、特に疑うこともなかったが、今になってみればやはりどこかおかしな出来事に感じる。  ここのところ、時給自足のもの以外で口にしたものといえば果物くらいだったが、だからこそ自分の甘さに頭が痛くなる。 「果物に何か仕込んだの?」 「姫様が口になさるのは果物だけですから」  つまりマーナは知っていて、果物に何かを仕込んだのだ。
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