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 馬車の窓ガラスに頭をぶつけ、痛みを堪えながら手で押さえた直後、ドアが激しい音を立てて閉まった。 「出せ!」  兵士が叫ぶのと同時に、馬車が勢いよく動き始めたため、アンジェラはバランスを崩して倒れそうになる。床に倒れるーー思わず目をギュッと閉じた瞬間、誰かの腕に抱き止められたのだ。 「大丈夫かい? 魚を獲るのは得意でも、馬に乗るのは苦手だったりするのかな?」  魚? アンジェラはハッとして、その腕の中から飛び上がった。暗がりの中、じっと目を凝らして見てみると、見覚えのある顔が浮かび上がってくる。 「あなた……まさかトム?」  アンジェラが口をパクパクさせながら呟くと、男はニヤリと笑った。 「正解」 「どうしてこんなこと……」 「どうして? 君と村を助けると約束したじゃないか。だからこうして君を連れ出したんだ。それとも地下牢に行きたいかい?」 「嫌に決まってるでしょ! とんでもないこと言わないでちょうだい!」 「あはは! それなら私に任せてくれ」 「……わかったわ」 「ありがとう。とりあえずしばらく馬車を走らせてから、馬に乗り換える。これでは目立つからね」  馬には乗ったことがないーーその不安が顔に出たのか、トーマスはアンジェラの頭に手を載せて微笑んだ。 「私がついているから大丈夫だよ。あとサリー村だけど、部下に連絡をして、ハーランに移動している途中だ。まぁ突然現れたものだから、村の人は半信半疑だったようだが、君と母上とのやりとりの手紙を見せたらなんとか信用してくれたよ」 「あれを持ち出したの?」 「あぁ、今日送るはずだった手紙もあったから、ご家族には状況を伝えやすかった」 「そう……良かった……本当にありがとう」 「お礼はまだ早いよ。君がこの国を出なければ意味がないからね」  その時だった。突然馬車が急ブレーキをかけて止まったのだ。 「何があった?」  トーマスが警戒しながら御者に尋ねる。 「それが……女が一人、道を塞ぐように立っていまして……」  小窓から外を覗いたアンジェラは、大きく目を見開いた。それから馬車の扉を開けて、慌てて外へ飛び出した。
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