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 青いメイド服のマーナは、いつもと同じように無表情のままアンジェラを見つめていた。 「姫様、なりません。あなたはここにいなければならない、ここでしか生きていくことは出来ないのです」 「マーナ……言ってる意味がわからないわ。何故私がここでしか生きられないと思うの?」 「……王様が仰っておりました。姫様は体が弱く、個々の風土が体に合っていると。ここを出ては命に関わります。どうぞ宮殿にお戻りください」  マーナの表情が初めて歪み始めた。その時になって、ようやく彼女がアンジェラを心から心配していたのだと知った。  アンジェラをここに留めるための王の嘘を、優しくて真面目なマーナは信じてしまった。アンジェラに対するあの態度は、彼女なりの誠意だったのかもしれない。 「心配してくれてありがとう。でも私はここじゃなくても生きていけるわ。それにここにいたら、今夜から地下牢に閉じ込められてしまうしね」  しかし次の瞬間、マーナは隠し持っていた銃を取り出すと、銃口をアンジェラへと向けた。 「……それでも行ってはいけません」  驚いたアンジェラを庇うように、馬車から飛び出したトーマスが二人の間に立ちはだかる。 「銃を下ろせ。さもなくば撃つぞ」 「姫様を奪おうとしているのはお前たちじゃないかーー!」  どちらが先に引き金を引いたかは一目瞭然だった。激しい音ともに、マーナが崩れ落ちたのだ。 「マーナ!」 「姫様……!」  しかしマーナはどこも傷付いてはおらず、銃だけが数メートル離れた場所に転がっていた。 「あら、あなた、銃の腕前も相当なのね」 「少し前までは戦場にいたからね。それより急がないと、今の銃声できっと気付かれたはずだ。ここからは馬に乗って進むことにする」 「わかったわ」  トーマスたちが準備をしている間、アンジェラはマーナに歩み寄る。地面に突っ伏し、すすり泣く声が聞こえるが、アンジェラの気持ちは何も変わらなかった。 「私は行くわ。私の未来、自由を取り戻すの」 「……」 「今までありがとう。さようなら」  それだけ伝えると、準備を終えたトーマスの元へ歩き始める。 「さぁ、行こう」  アンジェラは頷き、トーマスと共に馬に跨った。その表情は希望の光に満ちていた。
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