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「あぁ、ごめんごめん。君はいつも私の考えの斜め上を行くと思ってね。ならアンジー、ハーランに行かずにどこに行くつもりなんだい?」
未だにどこか張り詰めていたアンジェラは、トーマスの笑顔を見てホッとした。昨夜のことが夢であったかのような、穏やかな空気が流れていく。
「女神様の想い人を探そうと思って。そろそろ彼女を解放してあげたいから」
「それは王都に来てからでもいいんじゃないかな。ご家族も君を待っているはずだよ」
「いえ、それはダメ。これは私がやり遂げるべきことなの。きちんと終わらせてからじゃないと、家族に合わせる顔がないわ」
自分のせいで村人たちに住み慣れた村を捨てさせてしまった負い目もある。それならば、全てを終わらせてからでないと合わす顔がない。
「つまり、女神様の想い人を見つけるまでは旅を続けるーーそういうことだね?」
「その通りよ」
「それはどれくらいかかるのだろうか」
「わからないわ。一年かもしれないし、十年かもしれない」
「それを終えるまでは、君は結婚しないんだったね。その決意は固いのかい?」
「えぇ、もちろん」
するてトーマスは何かを決意したように頷くと、アンジェラに満面の笑みを向けた。
「じゃあ私もアンジーに同行することにしよう」
「….はぁっ? 何言ってるのよ、あなたは一国の王子でしょ。大事な仕事が待っているんじゃないの?」
「大丈夫。私には優秀な父とたくさんの兄がいるからね。それにもうアンジーはあの国から脱出したから、一つの脅威を取り除くことには成功したんだ」
あまりにも奇襲すぎて、王自身もアンジェラの単独犯なのか、はたまたどこかの国が一枚噛んでいるのかもわかってはいないだろ。
「それに戦争の後も働き詰めだったんだ、そろそろ自由にするのもいいかと思って」
「でも、いつまでかかるかわからないのよ」
「いいじゃないか、いつまでかかっても。アンジーといれば未来も明るい気がしたんだ。それに君は魚を獲ることには長けていても、身を守る術は持ち合わせていないようだからね。私は旅の相棒にぴったりだと思うけどな」
「……まぁ、言われてみればそうかもしれないわね」
旅は道連れーーアンジェラも相手がトーマスなら楽しそうだと思った。
トーマスがアンジェラに手を差し出す。その手をとった途端、体を持ち上げられ、馬の上に乗せられてしまった。
「さぁ、そろそろ出発しようか」
アンジェラは頷いた。女神様の想い人を探すため、そして自信を持って家族のもとに帰るために、新たな一歩を踏み出す。
「女神様を絶対にハッピーエンドにしてあげるんだから!」
それはアンジェラの決意だった。この脱走計画の最終目的地は女神様の恋の成就。計画まだまだ進行中。
二人は夜の帳が下りた森の中へと馬を走らせた。
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