1

1/5
前へ
/25ページ
次へ

1

 ガッ、ガッ。森の奥から、この静けさからは想像も出来ない音がした。 「ふぅ。あとちょっとだわ……」  奥の宮と呼ばれる、緑豊かな森の中に建てられたこの宮殿は、予知姫が占い以外の時間を心安らかに過ごせるようにと建てられたものだった。敷地内には小川が流れていたり、小さいながらも湖もあり、とても長閑な場所だったーー表向きは。  ここは森の中の一部。宮殿の周りは高い塀で囲まれ、人も動物も簡単に出入りができないようになっている。つまり塀の中では自由だが、中にいる者は軟禁状態なのである。  アンジェラは敷地の端、高い草に覆われた塀の前で手には大きめの石を持ち、集中して土を掘り返していた。着ていたドレスは汚れたらまずいから、近くの岩の上に置いてある。下着姿だけど、どうせ誰も見てないし気になんてならない。  この宮殿にやって来て早六年。始めはアンジェラがここに留まることこそが、村の平和だと思っていた。だから静かに生活していたし、王に言われるがまま占いもした。  でもある頃から、それでは何も変わらないと言うことに気づいたのだ。  そうよ、本来なら私の方が力を持ってるわけだし、脅すなら私の方なんじゃない? でもあの軍事力の前には歯が立たない。それこそ村の人々の命が脅かされてしまう。だからこそ、私がこの計画を実行し、成功させなきゃいけないのーー!  そのためにまず始めたのが、このトンネル開通計画。塀の深さや厚みを調べ、石段を崩さないよう気をつけながら、王側の人間に知られないよう、この六年間コソコソコツコツ掘り進めて来たのだ。  その時、遠くの方からベルの音が響いてきた。これはこの宮殿に通じる唯一の扉が開かれた音で、ここに出入りするメイドのマーナが夕食を運ぶために、扉を開けたことを知らせるものだった。 「今日も時間切れね。続きは明日にしましょう」  アンジェラは掘り進めた穴から出ると、近くの草でその上を覆って隠した。それから岩の上に置いてあった服を手に持つと、湖まで足早に歩いていく。  そして湖の淵に立った途端、中へと勢いよく飛び込んだ。大きく水面が揺れ、その中心からアンジェラは頭を出す。汚れた体を洗いながら、ゆっくりと天を仰いだ。  うっすらと見える月は、新月がまもなくやってくることを物語っていた。  
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加