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宮殿に戻ると、広いダイニングに、たった一人のためとは思えないほどの大きさのテーブル、そしてそこにはワンプレートにパンとサラダと肉が載ったものが置かれていた。その横にはグラスに入った水と、皮のままの果物が並んでいた。
アンジェラは軽く笑顔を浮かべ、椅子に座った。
「姫さま、夕食の時間になります」
横に立っていたメイドのマーナが、無表情のままそう口にする。まるで機械みたい。意思を持たず、ただ命令されたことだけをこなしていく姿は、どこか滑稽に見える。
まぁどうせこの先の展開は毎日同じなんだけどねーーアンジェラはゆっくりと目を伏せ、立ちくらみがしましたとでも言うように、わざと体をふらつかせた。
「あぁ、マーナ。ごめんなさい……今日も食欲がなくて……。新月が近付くと、どうもナイーブになってしまうみたい。良かったらあなたが食べてくださる? 私はこのまま寝床につくことにするわ」
そんなわけないだろうが! と互いに心の中で悪態をついたかのように、二人の目線がしっかりと合う。
「……承知しました。ですが何も口にされないのでは、お体に良くありません」
「えぇ、そうね。それじゃあこの果物をいただくことにするわ。心配してくれてありがとう」
「……かしこまりました。では明日の朝に伺います。ゆっくりとお休みくださいませ」
「ありがとう。あなたもね」
アンジェラは果物を手に持ち、その場から立ち上がろうとした時だった。
「姫さま、くれぐれも火の取り扱いにはご注意くださいませ」
思わず頬がひきつる。おかしいわね……時々こっそり魚を焼いているのがバレていたのかしら。なるべく煙を出さないよう注意してたのに。
「あら、なんのことかしら。火を使うのは禊ぎの儀式。何も心配いらないわ。じゃあおやすみなさい」
アンジェラは逃げるように自室に駆け込んだ。
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