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自室に戻り、窓から外を眺めていると、食事が載ったワゴンを押しながら、王宮に戻っていくマーナの姿が見えた。
マーナはアンジェラがここに来た時からのメイドだったが、なかなか心を開いてくれず、子供ながらに彼女は王側の人間なのだとはっきりと悟った。
そしてあの食事ーー新月が近付くと、味と匂いに変化が現れるのだ。そしてそれを口にすると、決まって頭がふらつき、体に力が入らなくなる。きっと何か薬を仕込まれているに違いなかった。
それからというもの、この宮殿では病弱を装い、か弱い予知姫で通してきた。
空腹は川と湖で獲った魚と、薬草で自給自足。この宮殿にはマーナ以外は立ち入らないため、ほぼ一人暮らし。安心して食べ物を口に入れられるし、何より生きている素晴らしさを実感出来た。
まぁほぼ軟禁だから外には出られないけど、図書室の本は読み放題だしねーーアンジェラは意外とこの生活が気に入っていた。
あとは誰か話し相手がいたらいいんだけど……今のところ、それだけが不足している。
「父さま、母さま、妹たち、じじ様に会いたいな……」
少しセンチメンタルになったその時だった。
コトン、と何かが倒れたような小さな音がアンジェラの耳に届いたのだ。ここにはアンジェラしかいない。窓も閉まっている。自然に何かが倒れるなんてあり得ない。
アンジェラはハッとして、カーテンの中に隠れた。じっと耳を澄ませていると、アンジェラの部屋のドアが静かに開く音がする。
マーナは帰ったのを確認した。誰かがここに入るのは見ていない。私がトンネル開通計画を実行している間に、誰かが侵入したというの?
絨毯と靴が擦れる音が聞こえ、グッと息を押し殺す。しばらくしてドアが閉まる音がした。きっと誰もいないと思って諦めたに違いない。ホッと息を吐いたその途端、カーテンが勢いよく開かれたのだ。
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