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アンジェラはため息をつくと、男を真っ直ぐに見据えた。
「予知姫に関するほかの情報はないの?」
「……そういえば、体のどこかに花のアザがあると聞いたことがーー!」
男の言葉を遮るように、アンジェラは左の胸元の服をぐいっと引っ張った。すると胸のまわりに、くっきりとした花なアザが現れたのだ。
男は驚いたように目を見開くと、アンジェラの顔を見つめた。
「じゃあ君が……予知姫?」
「そうよ。"病弱で儚く、触ったら壊れてしまいそうなくらい繊細な姫"なんて、私以外にいるわけないじゃない。というか、私の下着姿を覗き見した罪は重いわよ。極刑を覚悟なさい!」
「そ、それは……! だって姫ともあろう方が、そんな野蛮な行為をするとは思えないじゃないか!」
「野蛮ですって⁈ 汗水垂らして働くっていうのはね、高尚な仕事なの! ただ座ってる王様が偉いなんていうのは幻想なんだから!」
男は言い返す言葉が見つからないのか、口をギュッとつぐんだ。
「さっ、この短剣も退けてくれる?」
「……君は王の僕なんだろう。それならこの剣を下ろすことは出来ない!」
彼の目からは嘘や偽りが見えず、澄んだ瞳の色は彼そのものを表しているように感じる。
それにしても、私が王の僕? 笑っちゃいそうねーーだが火のないところに煙はたたないように、そんな噂を流して私を独占しようとしている奴がいるのだ。あぁ、ヘドが出るーーアンジェラはため息をついた。
「どうも話が食い違っているみたいね。あなたのこと、もう少し詳しく教えて欲しいわ」
男は短剣をアンジェラに向けたまま頷くと、口を開いた。
「私は隣国ハーランの第五王子、トーマスだ。そなたが仕える王であるモライが和平条約撤回をしようとしていると聞き、ここへ参った次第だ」
和平条約の撤回ですって? それは初耳だった。両国が領土に関する争いをしていたのは百年も前の話で、和平条約が交わされてからは友好的な関係を続けていた。
ハーランは海に面しているため漁業や、山の上では農業も盛んだと言われる。それに対してこの地は軍事産業が主な収入源で、互いに補い合って生活をしていた。
モライが王になったのが十年前。その後に村と引き換えにアンジェラを軟禁したことを考えれば、モライが和平条約を撤回して領土を広げようとしていてもおかしくはない。
「どうやら私たち、話さなきゃいけないことがたくさんあるみたい」
アンジェラが口にすると、トーマスは短剣をゆっくり下ろし、鞘に戻した。
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