ラグヤ王国 試しの塔街区

1/1
前へ
/15ページ
次へ

ラグヤ王国 試しの塔街区

 あれから3ヶ月――こちらで言うところの、季節1つ分が過ぎた。  こちらの世界では、夜空に3つの衛星、ロナ・ルタ・ラルタが明るく輝いている。  しかし、暦等はあまり日本と変わりないようだ。  ただし、1日は12刻で表されているし、1年は季節4つ分と記されている。  少しずつ表記が違うので、戸惑うことも多い。  小夜はまず、最小限の生活スペースのみ領域内に創造し、クロと住み始めた。  残りの塔部分は、塔石板を読込み、買い出しを兼ねて塔街区で情報収集をしてから、と思い、まだ手をつけていない。  けれども、小夜はクロと共に、懸命に前に進もうとしていた。 「クロ、塔主が尊重され、保護されるのは、本当だったみたいだね」  やや明るい表情で声をかけ、小夜は馴染みとなりつつある、塔街区を歩いていく。  恐る恐る始めた塔街区での買出しだったが、今は知り合いも増え、自由に動ける範囲も広がり、自信もついてきた小夜である。  そんな時、小夜に明るく声がかかった。 「いらっしゃい! 塔主見習いのお嬢ちゃん、今日は良いのが入ってるんだ。ぜひ、のぞいていってくれよな!」  景気の良い声かけに、小夜は顔を綻ばせた。  ここ最近顔馴染みとなった、店主だ。  そのまま店のオススメ品をいくつか購入する。  塔街区に住む人々は皆、乱立する様々な試しの塔から多大なる恩恵を受けている。  だからか、まだ仮の塔主、塔主見習いとも呼ばれる小夜にも皆、とても親切だ。  塔主は、左右どちらかの手の甲に印を持つ。  そのため、塔の外に出る場合、一目で分かる塔主専用の手袋を着用な上、各塔の紋章を入れた指輪するのが通例となる。  また、小夜のように、塔主就任の儀より季節4つ分が過ぎるまでは、仮の塔主、塔主見習いと呼ばれる。  いわゆる塔の運営をするための準備期間があるのだ。  その期間中、見習いは塔主専用の手袋の上に、仮証である指輪をするのも通例。  つまり、塔主見習いも一目瞭然なのだ。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加