小夜とクロ

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小夜とクロ

 小夜は今春、憧れの県立黒峰高校に入学した。  自宅からほど近く、通学には便利。けれども、県有数の進学校とあって、猛勉強の末、やっともぎ取った合格だった。  そして、今は7月末。  地獄の期末テストを乗り越え、ついに、心待ちにしていた夏休みが始まった。 「クロ、そろそろ夕方のお散歩に行く?」  ベッドに寝そべってダラけたまま、小夜は足元に声をかける。  クロは去年の受験期、小夜の心の支えとなった、小原木家の新しい家族だ。  一人っ子の小夜にとっては、姉弟に等しい。  中3にあがる春休み、甲府でブリーダーをしている叔父に、強請りに強請って連れてきてもらった。  早春に生まれたばかりの甲斐犬。  つぶらで賢そうな瞳とコロコロとしたフォルム。そして、黒地に茶褐色の綺麗な虎模様に一目惚れした。 (可愛くて、賢いクロ。大好きだよ)
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