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迷いしもの
その途端、またしても一変する風景。
そこは、古びた神殿のような一室だった。
思わず振り返っても、あの異様な白い空間は欠片も見当たらない。代わりに祭壇のようなものが設置されていた。
「ラグヤ王国へ、ようこそいらっしゃいました。迷いしものよ」
突然の声かけに驚き、そちらにふりむくと、ローブを纏った老婆が石柱の影から現れる。
足元でクロが警戒の姿勢をとった。
小夜も警戒を禁じえないが、意思疎通のできることにも驚く。
異常事態の連続で、何がどうなっているのか問いつめたい気持ちをグッと抑える。
小夜一人なら、とっくの昔に半狂乱に陥っているだろう。
足元のクロが与えてくれる温もりと見知らぬ土地で理性を失う危機感が、ただ今の小夜を支えている。
情報だ。情報が欲しい。
「あなたは? 迷いしものとは?」
老婆はドーラと名のり、この神殿に務める神官であると語った。
迷いしものとはその名の如く、異世界から狭間を抜け、この世界に顕現したものを示すらしい。
それからも、小夜からの問いに淡々と答えていくドーラ。
そして、彼女からもたらされた事実は、小夜を打ちのめすこととなる。
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