2人が本棚に入れています
本棚に追加
黒珠
案内された一室のベッド上で、小夜は膝を抱えて泣いていた。
隣に寄り添うクロの身体が温かい。
与えられたばかりの衝撃的な情報が、小夜の頭の中をグルグルと回る。
もう家には戻れない。
そこには真実の響きがあった。
何故かソレが小夜には分かった。
ならば、どうするか。
ドーラの言を信じるならば、塔主一択だ。
けれども、思考を奪うかのような性急さと心の奥底で渦巻く危機感が、小夜の決断を迷わせる。
「クロ、私どうしたら良いの?」
泣きながら眠った翌日。
小夜は為すすべもなく、儀式の間へと連れてこられた。
決して乱暴ではないが、断固とした態度の神兵達に囲まれ、逃げることも逆らうことも許されない。
小夜とて違和感は感じても、まるで勝手がわからぬ異世界で、何も手助けなく、いきなりクロと生きていけるとは思っていない。
物語でよく読んだ、召喚ものではないのだ。彼らにとって、小夜は世界を跨いでしまった迷子――迷いしもの。今時点では、何の義理も責任もない筈。
いきなり放り出されそうな、怖さもある。
だから、小夜は半ば押し切られるように、そして、ただ直感的にもうここは自分が折れるしかないことを察し、そこで小さく頷いた。
その途端、周りにホッとした空気が流れ、ドーラが穏やか表情で前に出てくる。
「賢明な判断に痛み入ります。では、これを」
小夜が左手に黒珠を持たされ、ドーラが呪を唱えた瞬間。
眩い白光とともに、小夜の身に黒珠と繋がれた感覚が走った。
最初のコメントを投稿しよう!