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 旅人が最後にたどり着いたのは、黒い服を着た住人達が暮らす街だった。どこもかしこもがボロボロで、幽霊でも住んでいそうな趣がある。  住人達はどんより。歩く人々はうつむき、道端に座り込んでしまっている者もいる。  自分まで暗い気持ちになりながら進んでいくと、ドカドカと大きな音が聞こえてくる。誘われるように音の方へと近づいていくと、汗だくになって、道や建物の修理をしている一団に出会った。  活力的な人間との出会いに旅人は感謝した。 「あの、この街はどうしてこんなにボロボロなんですか?」  旅人の質問には、髭を生やした年輩の住人が答えた。 「色々だよ。争いが起こったり、犯罪者に襲われたり。疫病が流行った事もある」 「それをあなた達が直しているのですか?」 「自分達が暮らす街なんだ。少しでもいい場所にしたいと思うのは当然だろう?」 「他の街へ渡ろうとは?」  これまで幾つもの街を渡り歩いてきた旅人からすれば、それは当然の疑問だった。  年輩の住人は周りの人々を意味ありげに見渡しながら、しみじみと答える。 「この街はね、旅人の街なのだよ」 「旅人の街?」 「よく見てみなさい。皆、同じ色の服を着ているように見えるが、少しずつ違っているだろう?」 「ああ。確かに」 「誰もが皆、始めは自分の街の色の服を着ていた。それが他の街を渡り歩いていくなかで、別の色が染み込み、混ざり合い、変わっていったのさ。最初はどうだったか知らないが、とにかくそうしてたどり着いた一人の黒い服を着た旅人が、この場所で暮らし始めた。そこから似た色を持つ人間が集まってできたのがこの街ということさ」  旅人は体を広げ自分の着ている服を眺めた。決して綺麗とは言えない、黒色の服を。 「そう。君もまた、様々なものを見て、様々な生き方を知って、ここに行き着いたという事だね」 「僕はこれから、どうすれば?」 「それは君にしか分からない事だよ。迷ってもいい。恐れてもいい。疲れたら休んでもいいし、必ずしも一つの正解を見つけださなければいけないわけでもない。ただ、最後には自分で決断を下さなければならない。我々はね、そうする事しかできないのさ。少しでもいい結末へ進んでいる事を信じて」  住人の言葉を噛み締めながら、旅人は空を見上げた。今日まで自分を見守り続けきた大空が、そこには広がっている。
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