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 黒い服をまとった旅人が次に到着したのは、赤色の服を着た住人達が暮らす街だった。熱気立ち込める暑苦しい街で、工場からは煙がゴウゴウ、商店や飲食店からは活気のある声が聞こえてきている。  旅人は歩道を歩き始めた。あちこちでストリートミュージシャンが演奏をしている。ダッシュをしたり、突然腕立て伏せを始めたりする住人もいる。 「はい、どうも!今回の動画はですね」  動画を撮影しているらしい住人を横目で見ながら進んでいくと、すぐ隣を猛スピードで車が通り過ぎていき、驚いた。危なっかしい街だなぁなんて思っていると、その車が次の十字路で曲がり損ね、正面の店に突っ込む。ガラスの割れる音が辺りに響き渡る。  体を飛び上がらせ、慌てふためき、とにかくどうにかしなければと周囲を見回す旅人。しかしストリートミュージシャンは歌い続けているし、他の住人達も知らん顔。唯一反応を示したのは動画配信者で、ここぞとばかりに現場にカメラを向け、大声でまくし立てている。 「あの!そんな事してないで助けないと」  旅人は動画配信者に叫んだ。 「そんな事?君は僕の夢を馬鹿にするつもりかい?」 「いや、そういう事じゃなくて……」  サイレンの音が近づいてきて、旅人は言葉を止める。時速100キロを超えるスピードで救急車と消防車が現場に到着し、驚くべき速さで作業を進めていく。    その光景に呆然としている旅人の横を、一人の住人が雄たけびを駆け抜けいく。再び体を飛び上がらせた旅人へ、動画配信者が嬉々とした様子で尋ねてきた。 「ねぇ!もしかして君って、この街の人じゃないのかい?」 「ええ。旅人ですけど」 「是非密着動画を撮らせてくれないかい!?この街では、旅人というのは事故なんかよりよっぽど珍しいんだ。きっと再生数が稼げるぞ!」  少し悩んだ旅人であったが、この街を一人で歩く事に不安を感じて、渋々住人の願いを受け入れた。 「でも、密着って一体何をすればいいんですか?」 「君の思うようにしてくれればいいんだよ」 「じゃあ、ひとまずご飯を食べたいので、どこかいいところを教えてくれませんか?」 「いやいや。僕が決めてしまったら、密着にならないじゃないか。ヤラセなしが、僕のチャンネルのポリシーだからね。そういうところで他のチャンネルとの差別化を計っているんだ」
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