3

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

3

 それからも旅人は、いくつもの街を渡り歩いた。  白色の服を着た住人が暮らす街は、正義と秩序を愛する街だった。全ての住人が正しい行いを心がけ、全ての住人が悪を憎んでいた。  住人達は皆旅人に親切にしてくれたが、旅人は彼らのように清く正しく、間違いを一度も犯さずに生きていける気はしなかった。  お互いがお互いを監視し合うピリピリとした空気を感じつつ、旅人は次の街へ進んだ。  緑色の服を着た住人達が暮らす街は、自然豊かな長閑な街だった。住人達は協調性を何よりも大切にしていた。それぞれがそれぞれを敬い、慈しみ、助け合って生活をしていた。  街に入った旅人を、皆が快く歓迎し、食事や寝床を無償で提供してくれた。  この街では、皆が等しく平等だった。全てのものが均等に分け与えられるため、富む者はおらず、皆等しく貧しい暮らしをしていた。  旅人は、少しくらいは自分のため生きたいと思ってしまった。自分の努力が、自分以外の人のためになるのは、勿体無いような気がしてしまった。  楽しげに手を振る住人達に背を向けて、旅人は次の街へ進んだ。  多種多様の色の服を着た住人が暮らす街では、誰もが自由に生きていた。お互いがお互いの考えを尊重し、他者に考えを押し付ける事はしない。これまでの訪れた街の中で、最も旅人に合っているように思えた。  働きたい人は働いているし、眠たい人は寝ている。人を助けたい人は、人の役に立つ事に、邁進している。  しばらくは快適に過ごしていた旅人だったが、様々な生き方を見ているうちに、自分の正しさをどこに置いたらいいのかが分からなくなってしまった。誰かの考え、誰かの自由とは違う、自分の考えが絶対に正しいという自信が持てず、それを疑い始めると、自分が本当は何をしたいのか、何をすればいいのかかが分からなくなってしまった。  自由に生けねばと思えば思うほど、自由を強要されているように感じて、苦しくなっていった。  今を生きる住人達に背を向けて、旅人は次の街へ進んだ。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加