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 黒い服をまとった旅人は、青い服を着た住人達が住む街に到着した。ビルが並び立つそれはそれは立派な街で、何もかもがきっちりとしている。  ビルの形はどれも同じで、高さや窓の数まで一緒。その間を碁盤の目のように道が通っていて、道を行く車達は同じ速度、同じ間隔で列を作って進んでいる。  歩道を歩く人々はみんな等しく同じ服、同じ髪型をしていて、立ち方、歩き方、角の曲がり方まですべてが同じ。非常にきびきびとした動きで、よそ見など一切せず、目的地へ向け歩いていく。  忙しなく動き回る住人達に目を回しそうになりながら、旅人は街の中を進み始めた。どこかで旅の疲れを癒し、ついでにお腹も満たしたいところだったが、のんびりと街を眺めて歩いていると、すぐに住人とぶつかりそうになってしまう。おまけに建物はどれも同じ見た目だし、看板なんかも出ていないから、目的の場所が見つかる気もしない。  仕方なく立ち止まり道の端に移動すると、目の前を通り過ぎていく一人の住人が、こちらを横目で見て鼻で笑ったように思えた。先ほどから住人達から向けられる視線が気にはなっていた。ただ珍しいものを見ているだけというものではない。そこには蔑みの色が感じられた。  なんて居心地の悪い街だろう。それでもすぐに出ていくというわけにもいかず、旅人は目の前を通りかかった住人に声をかける。 「すみません」 「なんでしょう?」 「あの。ちょっといいでしょうか」 「なんでしょう?」  住人は足を止めようとしなかった。旅人は小走りでついていきながら、諦めずに声をかけ続ける。 「あの。少し止まっていただけないでしょうか?」 「なぜ?」 「お聞きしたい事があるのですが」 「歩きながらでも口は動かせるでしょう?」  平然と口にする住人に腹を立てながらも、旅人は続けた。 「どこかご飯を食べられる場所はありませんか?」 「ご飯なんてどこでも食べられるでしょう?」 「食べられませんよ。手持ちのものも尽きてしまいましたし」 「ああ。ではこちらどうぞ」
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