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愛情と効果。
大きく息を吸って、吐く。どうだい、と先輩は腰に手を当てた。
「雨の日も悪くないだろ。正確には、雨上がり、かも知れんがな」
はい、と応じる声は上擦った。
「あの、本当に、凄かったです。虹って大きいんですね。それに、まさかこんな近くで見られるなんて」
「君の雨嫌いは知っていたからさ。このくらいの感動を与えれば、多少は気分も前向きになるかと思い試しにさっき占ってみたらば。ドンピシャで虹が現れると出たのよ。いやぁ、君を想う私の愛が奇跡を起こしたのかな?」
「占い?」
「トランプで時間と場所を探したのだ」
あれは一人神経衰弱でも透視能力の発現練習でも無く、俺のために行動してくれていたのか。合羽を脱ぎ、傘を足元に置いて先輩を強く抱き締める。
「おいおい、公共の場で大胆な」
「誰もいないから大丈夫です」
「ところがどっこい、人通りは戻ってきているんだなぁ」
そう言われて辺りを見回す。いつの間に現れたのか、人も車も通っていた。顔が熱くなる。
「不思議なことは続くねぇ。さて、買い物をして帰ろうか。夕飯は冷やしうどんでも食べようかな」
のんびり歩き出す先輩に、待って、と急いで合羽と傘を纏める。
「ほら、ビニール袋。これに合羽を入れれば濡れなくて済むだろ」
しれっと差し出してくれた。流石、とありがたく使わせて貰う。左手に合羽と傘を持ち、右手は先輩としっかり繋いだ。
差し込んで来た陽光が、あちこちの水滴に反射して煌めく。雫の落ちる小さな音が、そこかしこで響いている。空気は少し冷たく、緑と土の匂いを含んでいた。あぁ、そうか。成程ね。
「雨上がり、素敵です。雨の効果、さっきは全然理解出来なかったけど止んで落ち着いたらようやくわかりました」
「そうか。そいつは良かった」
「先輩のおかげです。ありがとうございます」
「君の気持ちが上向いたのならこんなに嬉しいことは無い」
微笑み掛けた先輩に、俺も笑い返す。そうして二人、並んで雨上がりの街を歩いた。
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