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「はいどーもー。2番ーりっちゃんー元気ー?」 その時玄関のドアが開く音と能天気な声がして慌ててソラを離した。 入ってきたのは、椎名樹だった。 「樹さん、突然きますね……。 というかりっちゃんって」 「可愛いでしょー?」 「いや何でも良いですけど……」 「食材持ってきたからー。 あ、やっぱりチャーハンは全然減ってないね」 冷蔵庫にテキパキと食材を入れていく樹に、違和感を覚える。 入ってくる時から俺の名を呼んでいたけれど、何で俺がここに住むことにしたことを知っているんだ? 冷凍食品ではなく食材なのも、完全に俺がいることを確信している。 「樹さん、何で俺がいると知ってるんですか?」 「え?だってこの家玄関にカメラついてるよ」 「は?」 「そりゃそうでしょー。 だってもしりっちゃんいなかったら2番連れて帰ってあげないと心配じゃん。 今のカメラって動きがあったところだけ後から再生できるから、大きな荷物持って帰ってきてその後外出していないこともすぐ分かりましたー!」 こちらに向かってどこか楽しそうに親指を立てる樹に、少しだけ焦りを覚えた。 玄関では特に何もしていないはずだ。 リビングでは抱きしめたり、抱きかかえたりはしたけれど。 「大丈夫大丈夫、声は聞き取れないしリビングやベッドまでは撮ってないから。 2番めっちゃ可愛いもんねぇ。 なんかしてても映ってないよ」 「してません!」 樹があははっと笑って、こちらへと歩いてくる。 そしてソラのおでこに触れると、頭を撫でた。 「2番、熱出ちゃったか。 解熱剤置いていこうね」 「もう2番じゃないの。 お名前、ソラ、もらったの」 「えー良い名前もらったんだね、良かったねぇ」 樹はソラへは優しい笑顔を見せながら、横目で俺のことを満足そうに見てくる。 「良かった、まぁ湊さんの子って言うからあんま心配してなかったけど大切にしてくれてそうだね。 これからも住めるんでしょ? じゃあ玄関のカメラも回収しておくよ」 喋りながら、ソラの服を捲し上げ軽く触れたり、”あーんして”と口を開けさせたりしている。 その様子はまるで。 「もしかして樹さんって医者か何かですか?」 「うーん、今はやってないけどね。 まぁ研修医まではしっかり終えてるし医師免許はあるよ」 けらけらと冗談っぽく笑う樹に、失礼だがとてもそうは見えないと思う。 「もしかしてその関係で父と?」 「……俺、あの施設で湊さんの次に雇われる予定だったんだよね。 有名医大の首席だったし研修医時代も優秀だったから目立ったのか、家の前で待たれて声かけられてさぁ。 湊さん余命宣告されてたし。 だから研修期間ってことで2週間くらい一緒にいたんだ。 湊さんが施設のことを内部告発したあの日はたまたまお休みもらってたんだけどね」 戯れにソラの爪のない手を撫でるのは、きっとその日にソラがどんな目にあったかを知っているからだ。 あの手記を見るに、相当酷い状態だったはずだ。 「最初は俺に合ってると思ったよ。 上にペコペコ頭下げるのも性に合わなかったし、勤務時間も短いしさぁ。 俺割と自分以外どうでも良い性格だったし、他人に情も湧かないと思ってたんだけど、湊さんが凄い優しく施設の子に接するの見て何か感化されてっちゃったんだよね。 まぁ他にも理由はあるけど」 ソラの頭がふらふらと揺れる。 俺たちの話もどこまで理解しているか分からないし、施設での話はあまり思い出して欲しくもないから聞かせたくもない。 「ソラ」 小さく呼びかけると、倒れそうになる彼を支える。 そのまま膝に頭を倒してやると、彼の瞬きは長くなっていき、やがて瞑目した。 樹が毛布を持ってきて、ソラにかけてやる。
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