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膝枕をされながら、ソラは少しだけ荒く呼吸をしていた。 その体に優しく触れながら、樹に尋ねる。 「もし告発なかったら働くつもりだったんですか?」 心なしか、話す声は小声になっていた。 「いや、湊さんにも止められていたし、何とかして逃げ出そうとうかがってた。 でもあそこ、一度踏み込んだら逃げ出せないオーラ凄かったの。 だから湊さんが告発してくれて俺も働かなくて良くなったし感謝してるんだ」 「……俺が住まなかったら、ソラを引き取るつもりだったんですよね? その方がソラは幸せじゃないですか。 医者なら経過も見れますし」 「まぁ、そうなんだけどね」 ふいに、樹が何かを思い出したのかふっと笑う。 その笑顔がやたら優しくて思わず見入ってしまう。 「もちろん誰も見れないならそうするけど。 俺も今、この施設にいた子と住んでるんだよね」 「え?そうだったんですか?」 「うん、1番と。 これが全然懐かなくて素直じゃなくて世界恨みまくってて大変でさぁ。 2人ってなるとちょっと面倒見きれる自信がないんだ」 散々な言い方をしながらも、樹の声や表情からは1番のことを大切に思っているのが伝わる。 ソラが2番ならば当然1番もいるとは思っていたが、身寄りのない1番を引き取ったのが樹ということになるらしい。 この前家に来た時に、確か”反抗期の猫が待ってる”と言っていた。あれはもしかして1番のことなのだろうか。 「1番、成人してるんですね」 「うん。1番は親に捨てられて施設に来た子だから、本名も分かってるんだ。 佐倉優月(さくらゆづき)。 施設ではその名前は使われなくて1番って呼ばれてたけど、資料には残ってた。 ソラ君とは顔見知りでもあるし、今度連れてくるね。 教育は一応受けてるからソラ君みたく幼くないけど、同じ年だから仲良くできるかもしれない」 頬杖をつきながら樹が鞄から取り出した薬を机に置く。 「これ解熱剤ね。 ご飯食べられるなら食べたあと飲ませてあげて」 「分かりました」 「つーかりっちゃんタメ語で話してよー。 仲良くなろうよー。 俺27だよ?2歳しか変わらないんだからさぁ」 冗談っぽく笑う樹に、これからもきっと世話になることは多々あるだろうなとは思う。 急に環境が変わってどうしたら良いのか分からないことも多いし、医師免許があるというのも正直心強い。 「……分かった」 「いっちゃんって呼んで?」 「樹って呼ぶわ」 口を尖らせた樹に、ほんの少し微笑んだ。 こうして事情を理解している人がいるというのは、少しだけ不安が和らぐ。 「俺下の階住んでるから何かあったら来てもいーよー」 「え、そうなの?」 「そうそう!だから助け合おうねー」 立ち上がった樹が、玄関のカメラを回収する。 隠すでもなく、普通に玄関の棚の上に置いてあったようだ。全然気が付かなかった。 「じゃあうちの猫長く放置すると何するか分かんねーからそろそろ行くわ。 また何かあったら連絡してー」 「ありがとう」 喋りはどことなく胡散くさい感じもあるけれど、 きっと悪い人ではないと思う。 特に1番、佐倉優月の話をしていた時は柔らかな表情をしていた。
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