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ソラをベッドに下ろそうと立ちあがろうとすると、彼の小さな手が俺の服をぎゅっと握る。
珍しい、縋っているみたいだと思う。
3日間ソラと過ごしたが、彼は本当に助けを求めたり甘えたりしない。
この前お湯にならなくて水を浴びていたのもそうだし、
昨日は手に力が入らなかったのかカーテンが開けられなかったようで空が見られず、ずっとカーテンを眺めていた。
“開けて”と言うことさえ選択肢にないのだ。
そんな彼が、眠っているからとはいえこんな風に服を握っているのは、まるでベッドに置かないでほしいと言っているようにも思える。
やりづらいけど、仕方ねーな。
ため息を吐くと、彼に膝枕をしたままノートパソコンを開いて仕事を始めた。
12時を過ぎていて、もしソラが気付いたら慌てそうだと思う。
父はほっておくとご飯を食べないソラに約束事を決めたのだろうけれど、もう俺がいるんだ。時間などずれても大丈夫。
「……っん」
ソラが眉を寄せる。
少しだけ顔を歪め、苦しそうな表情だ。
夢の中の方がまだ表情が変わる。
表現が苦手なだけで、ちゃんと痛がっているし辛いんだよな。
「よしよし、大丈夫大丈夫」
身じろぐ度に撫でてやればまたすぅすぅと寝息を立てる。
こうやってそばにいてやれば少しは長く眠れるのかもしれない。
ソラが起きたのは14時過ぎだった。
寝返りも打たず基本大人しいので仕事は十分捗った。
「……りと」
「ん?起きた?」
「りと、いま、何時?」
まだぼんやりとしているソラの頬に触れる。
そこそこ眠れたのに全然熱が下がっていなくて苛々する。
「もう12時と8時に食べなくても良いんだ。
ちゃんと俺と一緒に食べよう」
「そうなの」
目をこすりながら体を起こしたソラが、俺のパソコンの画面を見つめる。
「これ、なーに?」
ソラが画面の中の文字を指差した。
ちょうど文章を書いていた最中だったので、画面は文字でびっしりと埋められている。
「ひらがな、覚えた。
でもわからないの、いっぱい」
そういえば、ソラは文字が読めないし書けないと書いてあった。
あいうえおの絵本なんかもあったし、ひらがなは、父さんが教えたのだろうか。
「漢字とかは難しいよなぁ」
鞄からメモ帳を取り出すと、ボールペンでそこに”そら”と書いてやる。
「そ、ら」
「本当にひらがなは読めるようになったんだな。
これがソラの名前」
続いてその下に、”ソラ”と書く。
書いている間ソラは手を出すこともなく、ただじっと待っていた。
ボールペンが紙に触れる音だけが響く。
「これは?」
「これもソラ。カタカナで書いた時のソラだよ」
「僕にも書けそう」
「確かに、1番書くのは簡単かもね」
少しだけ体が前のめりになるソラに、興味があることなのかなとどこか嬉しくなる。
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