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** 次の日、インターホンが鳴って目が覚めた。 ネットでドライヤーやらソラに合いそうなサイズの服やらを頼んでいたのが届いたのだ。 段ボールを開けていると、ソラも体を起こしてベッドから降り、中を覗き込む。 「まだ寝てていいのに」 「いっぱい寝たの。 これ、なーに?」 「ん?お前の服」 これまでずっと父の服をワンピースのようにして着ていたが、さすがにずっとそうというわけにはいかないので、Sサイズのメンズの服をいくつか購入していた。 「小さいね」 「ソラは小さいからな」 開封して渡してやると、それを握ってじっと見つめている。 「これ、僕のなの?」 「そうだよ。着てみる?」 「うん、うん」 少しだけ手助けしながら着替えると、やや大きいが問題なく着ることができた。 「おてて、動かしやすい」 「前まで袖長かったもんな」 ソラが少しだけ目を細める。 少しも口元は動いていないのに、まるで嬉しそうにしているみたいに見えるから不思議だ。 「そういやコンビニに支払いに行かなきゃいけないのあったな……。 せっかく着替えたし、一緒に行く?」 コンビニはマンションと隣接しており、徒歩30秒ほどの近場にあった。 置いていってもすぐに帰ってはこれるが、歩く練習を兼ねるのも良いかもしれない。 人に会うのも刺激になるかもしれないし。 こくこくと頷くソラが、ベッドボードに置かれた名前の書かれたメモを握る。 「これ、持っていく」 「は?置いてけ置いてけ。すぐ帰ってくるから。 失くすぞ逆に」 「なくなるのは困るの」 呟いたソラは、メモを大切にもどす。 あんな戯れに俺が書いた名前のメモを、ソラはやたら大切にしているようだった。 毎日何度か握って、見たりなぞったりしては、いつも同じ場所に置いている。 玄関に向かい靴を履き始めるソラを見ながら、 本当は1人で行った方が明らかに早いんだけどななんて思う。 ソラは靴を履くだけでも一苦労で時間がかかる。 手助けしてやっても良いが、やってあげすぎるのもよくないとは思っていた。 いずれソラが全て1人でできるようにならなければいけないことだ。 爪のない手を使いながらやっとのことで靴が履けると、ソラが立ち上がる。 「できたな」 「うん、できた」 頭を一度撫でてあげたら、彼はぼんやりと俺を見上げた。 ゆっくりと歩き出すと、ソラは少し後ろをついてくる。 エレベーターでは、ソラは数字がひとつずつ降りていく表記が興味深いのかじっと見つめていた。 父さんに頼まれてソラに出会った頃は面倒なことになったと確かに思ったはずだし、 今こうしてやたらゆっくり歩かなければいけないのも、ソラが転ばないか見守っていないといけないのも、1人の方がよほど楽だと思わざるを得ないけれど、 少しずつ、俺の中でもソラの存在が大きくなっていた。 もうすっかり、ほっておけなくなってしまっている。
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