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クロワッサンの袋を開けて食べようとすると、隣でソラが首を傾げた。
袋を引っ張ったり、少し掲げたり、端を握ってみたりしている。
指先の力がないソラには、袋を開けるという行為は難しいのだろう。
手を伸ばして開けてやろうかと思って、しばらく様子を見ることにする。
ソラは袋を持ったまま、じっと座り込んでいた。
いつまでそうしておくのだろうと見守り、もう10分は経とうとしている。
きっと声をかけないと、ずっとこのままなのだろう。
「ソラ」
「なーに?」
「開けられないの」
「うんうん」
握った袋を見ながら、ソラがぽつりと呟く。
「困ったの」
「困ったときはどうするの」
「え?」
少し考えるような顔をしたソラがさも当然のことのように頷いた。
「諦めるの」
「なんでそうなる」
手を差し出してやるがそれでも何のことか理解ができないようで、こういう姿を見ればソラの人生の中で助けてくれる人は本当にいなかったのだろうことが垣間見える。
「俺が開けれるんだ、頼れば良い。
困ったら助けを求めるんだよ」
「りとに?」
「俺にもそうだし、樹とか、他の人にも」
ソラの手に少しだけ力が入るのが分かった。
これまでそういう環境ではなかったのは理解している。
頼ったところで受け入れられなかっただろうし、酷い目にも遭ってきたのかもしれない。
「……りと、開け、て?」
やたらぎこちなくソラが俺に袋を差し出す。
「はいはい、いいですよー」
それを受け取ると、すぐに開けて返してやる。
あっという間に開けられた袋をソラはゆっくりと瞬きをしながら眺めた。
すぐには難しいかもしれないが、たったこれだけのことなのだと理解してほしい。
頼れば数秒で解決することなど世の中にはたくさんあるのだ。
リンゴジュースにもストローをさしてやり、
「じゃあ食べようか」と仕切り直せばソラがうんうんと頷く。
一口含んだソラの目が、ほんの少し見開いた。
「これ、ずっと食べてたのと違うの」
「美味しいだろ」
「うん、おいし」
樹にとりあえず美味しいと言っとけと言われたソラだったが、反応を見れば本当に美味しいと感じていることが分かる。
表情が変わっているわけではないけれど、何だか初日会った時よりも、細かな目の動きや仕草で感情が分かるようになってきたな。
リンゴジュースを口に含んだソラが、味わうようにゆっくりと飲み込む。
一度ストローから口を離したかと思うと、もう一度咥えて吸い込み、小さく頷いた。
あぁ、美味しいんだろうな。
これから知らないことを色々知っていって、いつか生きていてよかったと感じられるようになるのかな。
そうなると良いなぁ。
クロワッサンのサクサクとした食感とバターの香りを感じながら、微笑む。
ソラと暮らすようになって気にかけないといけないことは当然増えたし、
ソラの境遇に胸が痛くなることもあるけれど、
なんだかんだ俺も笑うことも多くなったななんて思いながら、味を確認するようにゆっくりと食べ進めるソラを見つめていた。
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