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月
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うちの反抗期の猫との付き合い方は中々難しい。
「ねーベッドで寝てよー」
「は?何で、嫌だ」
椎名樹は、壁を背に寄りかかって座っている青年を見た。
佐倉優月20歳。施設の被害者で、施設内では1番と呼ばれていた。
大きな目がやや吊り上がっているいわゆる猫目。
サラサラと癖のない黒髪。
身長は165センチほどの細身で、綺麗顔立ちだ。
「だってどう見たって熱あるじゃんー」
「ねーよ」
「体温計、測って」
「やだ。万一熱あったって別に放っておけよ。
ただの偽善で引き取ったくせに」
優月は俺を睨んで頑なに動かない。
頬も赤いし、時折頭痛がするのか苦しそうに顔歪めているし、眠れていないようで目の下のクマも酷いし、寝て欲しいだけなんだけどなぁ。
もちろん抱きかかえてベッドに下ろすことは余裕なんだけれど、そんなことをしても暴れて降りるだけだし、そもそもここで一緒に住み始めて1ヶ月ほど経つのに、俺がソファで眠ると言ってもまだベッドで寝てくれたこともない。
大体今みたいに壁に寄りかかって目を閉じているかソファで眠っているかだ。
「せめて解熱剤飲んでくれない?」
「嫌だ。本当に解熱剤かどうかも分かんないのに飲めるかよ」
いくら医師免許があったって、合う薬を選ぶ技術とそれを飲ませる技術は別だ。
「あーもう分かった分かった。
とりあえずゆっくりしてよ」
「ゆっくりしてとかやめろよ。そういうのいらないから」
大きなため息を吐く。
優月はとにかく人を信用していない。
優月のことは施設にいた時に資料で見た。
中学生の時に実の両親に金で売られてあの施設へ行くことになる。
すぐに未成年にも関わらずレイプされ、そこを撮られた。
こういう強気なタイプが泣きながら絶望している姿を見たいという特殊性癖持ちは意外といるもので、動画はよく売れたらしい。
最初に動画が販売されたから1番と呼ばれていた。
声をかけても逆に興奮させるだけなので、ソファで携帯を弄りながら横目で気にかける。
水分をとって欲しいけど渡すと逆に取らなくなってしまいそう。
どうしたもんかね。
売られたということは家族関係も良くなかったんだろうし、施設に行ってからはもちろん最悪だったから、生い立ちを思えば誰も信じられなくなることはよく分かるが、本当に扱いが難しい。
優月は眠るのが怖いのか、いつも必死に眠らないように耐える。
そんなことしたってどうせ限界が来て眠ってしまうのだから、大人しく寝てしまえばいいのに。
1ヶ月経つのに関係が全く良くなっている感じがしない。
りっちゃんとソラの方が一緒に住んでいる期間は短いのに、どことなく心通わせはじめた気がする。
ソラも名前もらってなんとなく嬉しそうに見えたしなぁ。
そっと見れば、やっと優月は目を閉じていた。
抱えれば起きて暴れそうだし、今はとりあえず休んで欲しいから触れないのが良いのかな。
とはいえ寝づらそう。
暖房効いているとはいえ真冬だし、ベッドで体休めてほしいな。
15分ほどそのままにして、深い眠りにつくのを待つ。
それからそっと抱きかかえてみると、体は思いの外熱かった。
高熱だ、39度くらいあるかも。
病院に連れていくのは嫌がるよなぁ。
ベッドに下ろすと、体を横にされたことで寝かせられていることに気付いたのか、不快そうに眉を寄せる。
起きてしまいそうでもう一度抱きかかえた。
抱いているままだと意外と眠ってくれるかもしれない。
寝ている時くらいでないと顔を合わせてくれないので、この機会にとしっかり顔を見つめる。
もう慢性的な寝不足、もはや不眠症の域だとは思うが濃いクマができている。
左目の下の泣きボクロは妖艶にも感じるが、これがあって良かったことなどひとつもないだろう。
むしろ世の中に優月の動画を手にしたやつはたくさんいるのだから、特定される要因にもなり得るかもしれない。
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