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俺は、佐倉優月という人間は、初めから存在しなければ良かったともう何度思ったか分からない。
何1つ良いことなんてないし、生まれてこなければ良かった。
幼い頃は両親共に仲が良くて俺にも優しかったのに、
小学生高学年なる頃には仲が悪くなり、離婚するにもどちらも引き取りたくなくて、俺のことはお荷物になった。
その頃にはもうよく殴られていたし、生まれてきてくれてありがとうとか優月がいて良かったとか言われていたのも全部嘘だったのだと悟った。
あんなに愛し合っていた両親も最終的にはああなって子ども捨てるのだから、愛なんてものもこの世界にはない。
頭が痛い。息が苦しい。
このまま死んでくれないかなと思うのに、
ここで死んでしまったら俺の人生は何だったんだとも思う。
このまま生きていたって事態が良くなるわけでもないし、何も良いことなど起きないことは分かっているのに、一体何を期待しているというのだろう。
ぼんやりと目を開けると、ソファに横になっていて毛布をかけられていた。
また優しいフリ。
もういっそ施設にいた時みたいに酷く扱ってくれた方が分かりやすくて良いのに。
辺りを見渡すと樹の気配がない。
捨てたかな、と真っ先に思う。
樹はこの1ヶ月やたらと俺に優しいが、その優しさは幼い頃の両親とリンクした。
いつか捨てるだろうし、お金と引き換えに売られるのだろう。
何せ俺は、何も持っていないのだから。
机の上にはペットボトルの水が置いてある。
喉の渇きを覚えてそれを飲んだ。
どれだけ生きることを嫌がっても、結局はこうして生きるための行動をとってしまう。
そんな自分が酷く弱くて、嫌だ。
玄関の鍵が開く音がして身構える。
「ただいまー。うわ、もう起きてるじゃん。
結構急いで帰ってきたのになぁ」
笑顔の樹から目を逸らした。
ビニール袋を持っている。買い物へ行ったようだ。
「……2番のところ、行ったのかよ」
「ううん、普通にうちの買い物。
今あの子凄い優しい人と住んでるから大丈夫だよ。
怪我のこともあるから、様子は定期的には見に行くけどねー」
優しい人とやらも、どこまで信用できるか分からない。
2番は施設で何度か話したことがあるが、あの子は何ひとつ悪いことをしていない。
あれ以上苦しい目にはもうあってほしくなかった。
「ソラって名前もらってたよ」
ソラ。良い名前だ。
2番と呼ばれるよりは、よほど良いと思う。
1番だの2番だの、本当に趣味が悪い。
「優月は大丈夫?」
名前を呼ばれて鳥肌が立つ。
とはいえ、俺は自分の名前は嫌いだった。
あの両親が呼んでいた名だし、何年も呼ばれていなかった本名を呼ばれるのは心臓あたりが喚いてどういう感情なのかわからなくなる。
「うるさい、大丈夫だからもう話しかけんな」
「はいはい、ポカリとかゼリーとか冷えピタとな買ってるからなんか欲しかったら勝手に取ってね」
樹との生活は、居心地が悪い。
こんなに拒絶しているのに、何故樹は俺に対して怒らないし殴らないし体を求めてくることもないし捨てないのだろう。
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