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こめかみをハンマーで殴られているようにズキズキと痛む。 胸の中をかき混ぜられている感覚がして具合が悪く、何もしたくない。 時計を見ると、18時半頃になっていた。 ふらっと立ち上がる。 ご飯、作らないと。 樹の家で俺は食事を作るのを担当していた。 両親の仲が悪くなったくらいから家事は強要されていたし、飯が不味ければ殴られていたから、ある程度の自炊はできた。 樹は驚くほど料理ができない。 ここに住んですぐの頃は、ご飯だけ炊いた卵かけご飯か、冷凍食品だった。 別にそれでも良いっちゃ良いけど、俺は金も一切渡していないし、何もしないというのも癪で。 見かねて料理を作るといえば、樹は嬉しそうに食材を買ってくるようになり、今に至る。 「え、まさかご飯作る気?」 「全然動ける」 「優月のご飯好きだけどー今日は作りたい気分だから任せてー」 肩を抑えられてもう一度ソファに座らせられれば、体がだるくてもう反抗する気力すらなくなっていく。 「お前料理できないじゃん」 「レシピと作り方は今やネットで見れるからね!」 樹が携帯の画面と睨めっこしながら、真剣な表情で食材を切っている。 よく分かんねーな、本当にこいつは。 俺みたいなの飼って、特に何に使うわけでもなく何がしたいんだろ。 もういいや。 何か立ち上がるのも億劫だし、作りたい気分って言ってるし任せよう。 昔体調悪い時夕飯作れなかったらクソ親父に殴られたりしたっけ。 嫌なことを思い出し、ため息を吐く。 包丁がまな板にあたるトンという音が聞こえる。 その音はやけにゆっくりで、持ち慣れていないことがうかがえる。 目を閉じるとぐわんぐわんと世界が揺れて、気分が悪い。 まだとても食べられそうにない。 痛くて苦しくて意識が遠のいていく。 寝たくない。 いつだって眠る瞬間は、その後何をされるかが分からなくて怖い。 俺は目つきが良くないから、その目が嫌だと家ではよく目隠しをされていたし、施設では窓もない真っ暗な部屋にいることが多かった。 眠っている時に殴られたり強引に抱かれたりすることはよくあったから、 暗くなるのも、眠るのも嫌いだった。 体に触れられる感覚がする。 いつの間に気絶していたのか、体を横に優しく倒される。 薄ら目を開けると、料理は終わったのか樹が困ったように笑っていた。 「……ったく、お前は。寝る時は横になれって」 「……うるさい」 撫でるように体に触れられて、手で払おうとするが、力が入らずそれはだらんと落ちる。 「何もしないから」 まるで怯えていることを悟られているように言われて、何なんだよと思う。 うるさい、聞きたくない、優しくしないでほしい。 どうせ、お前だってーー 体が限界を迎えていて、目が開けていられない。 何かされるイメージが抜けないから、 “何もしない”という言葉は、気休めでも今だけは俺をほんの少しだけ楽な気持ちにさせた。
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