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「この施設、ハードSMものや未成年のAVを撮って裏ルートで販売しては多額のお金を得ていたんだよね。 エロもグロも何でもありな法外なビデオを多数作成していたみたいだよ。 2番が何をされていたのか詳細に聞くときっと気分が悪くなるから省略するけど、2番は暴力も性被害も受けてる。 でも生まれた時からそうだから、それがこの子にとっては普通みたいでさぁ。 だから、感情という感情がないんだ。 痛いのが普通で、優しさも温もりも知らない」 「なんだよそれ……」 「まぁ信じられない話だろうけどね。 じゃあ俺は帰るよ。家に反抗期の猫置いてきてるから。俺の連絡先はファイルに入れとくって湊さん言ってたからなんかあったら連絡してね」 止めるより早く、嵐のように樹と呼ばれた男は部屋から出ていく。 樹と父の関係も、何故施設についての詳細をこんなに知っているのかも聞けなかった。 こんなの、俺が関わる必要もない。 父の頼みといっても顔すら覚えていなかった奴だ。 しかしこいつ、ベッドで眠る習慣さえないのか。 先ほど玄関にいた時も、気絶するように眠っていた。 一緒に住んでいたと言っていたが、父が死んだと聞かされても表情ひとつ変わらなかったな。 玄関にいたってことは、帰りを待ってたんじゃないのか? 先ほども父の名を呼んでいたし。 とりあえずベッドに運んでやってから帰ろうと抱きかかえようとすると、先ほどは気がつかなかったが指の爪が全てなかった。 チャーハンを準備するこいつを不器用だと思ったものだが、指先がこうであればそれは上手く使えないだろう。 沸々と怒りのようなものが込み上げる。 これはさすがに、度を超えているだろう。 「……み、なと」 寝言を言う彼に、またそれかと思う。 「……本当は寂しいんじゃねーの。 それが寂しいとか悲しいっていう感情だってこと知らないだけで」 戯れに頭を撫でてやると、ほんの少し力が抜けるのが分かる。 抱きかかえれば先ほどは他のことに気を取られて気がつかなかったが、驚くほど軽い。 樹とかいうやつが買ってきた冷凍食品もチャーハンばかりだったが、もしかして父が入院してから同じものしか食べていないのではないだろうか。 電子レンジの同じ場所を押して同じ秒数に合わせてスタートを押す。その作業だけを教えられたのかもしれない。 ベッドに下ろすと、薄らと目を開ける。 やたら眠りが浅い。 こんなにクマができているのだから寝不足なことは容易に想像ができるけれど。 「みなと、似てる」 「一応家族だからな」 「お名前は?」 「理都」 「りと」 ぽつりと呟くと、彼はまた目を閉じる。 ため息を吐くと、俺は父の遺した手記に手を伸ばした。
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