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食べ終えて下げようとした皿を奪われる。 驚く程何もさせてもらえなくて調子が狂う。 「ベッドで寝てよ。 今日の優月の睡眠時間、全部まとめても2時間もないよ? 俺ソファ行くから」 「いいよ、治った」 「少し下がってはいるけど治ってはない。 どうせ抱えて連れてくよー?」 「めんどくさ」 体格差のせいで力なら敵うわけがなく、ため息を吐いた。 どれだけ拒絶しても絶対にいつかは寝てしまうし、そうして連れて行かれる方が癪のような気もする。 仕方がなくベッドに入ると、樹が柔らかく微笑んだ。 樹は180超える長身だし、ソファで眠るのは体が痛そうだ。 ベッドはキングサイズはあるのではないかと思えるほど広くて、俺1人では有り余る。 これだけ広ければ、別に樹が隣にいたところで触れたりしないのかもしれない。 「……ベッド、くれば」 「え」 樹が呆気に取られたように目を丸くする。 「え?え?良いの!?」 「やっぱダメ、嘘」 樹に背を向けるように横を向く。 いくらベッドが広いからって、何言ってんだ俺は。 「もう無理ー!その気になった!添い寝するする!」 「添い寝って言うな」 樹のどこか嬉しそうな声がして、背中でもぞもぞと人がベッドに入ってくる感覚がある。 「絶対触んなよ」 「うーん?まぁそのつもりではいるけどー?」 どこか腑に落ちない様子に、枕を自分と樹の間に叩きつけるように置く。 「これ越えないで」 「えー?何バリケード?まぁ良いけど」 くすくすと笑う樹を背に、毛布をぎゅっと握る。 添い寝と呼ぶには遠い。 でも確かに、添い寝とも言える距離。 体を休めていると、背後からすぅすぅという寝息が聞こえる。 振り返ると樹はもう眠っていた。 さすがに寝るのが早すぎる。 樹は羨ましいほど眠るのが上手だった。 少しでも空き時間があるとものの1分くらいで眠ってしまえ、すっきりと起きられる。 同じ人間でこんなにも睡眠の仕方に差があるのかと悲しくもなる。 起きている時は見られないので、そっと寝顔を観察した。 明るい茶髪、整った顔、長身。 いつも笑っている偽善者。 苦手なタイプのはずなのだけれど、1ヶ月も経てば何故か嫌という気持ちも薄れてきた。 調子に乗るから、そんなことは絶対に言ってやらないけれど。 樹に背を向け、何をすることもなくぼんやりと過ごす。 どうせいつか限界がきて眠ってしまう。 毎日その繰り返し。 でも何だか、樹の寝息は聞いていて安心するような気もする。 そっと目を閉じた。 襲ってくる暗闇が、いつもよりはマシに思えた。
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