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眠れたような眠れていないようなよく分からない中で朝が来た。
目は閉じていられたから体は休められたと思う。
何だか随分と体が楽になった。
やっぱりご飯を食べられたし薬が効いたからかなと思って首を振る。
いや、そんなはずはない。
そんなことは認めたくない。
多少の頭痛はするけれど、これは熱によるものというよりは寝不足によるものな気がする。
睡眠が足りていなくて慢性的な頭痛持ちではあるし、多分それだ。
体も重たくないし、きっと熱は下がっている。
ふと隣を見ると、樹が綺麗な寝顔で眠っていた。
俺の熱が下がっているということは、樹にもしかして移ってしまってはいないだろうか。
唐突に不安になり、そっと手を伸ばして彼のおでこに触れる。
大丈夫そう、全然熱くない。
その時、ふふっと樹が微笑んで慌てて手を離す。
彼の目がそっと開いて、心臓がどくんどくんと跳ねる。
いつから起きていたのだろうか。
「おはよう優月。もしかして熱移していないか心配してくれた?」
「ば、バカじゃないの……っそんなんじゃないし」
「あはは、そう?」
樹が起き上がり、ひとつ伸びをする。
「でもさぁ、バリケード、先に破ってきたのそっちだよね?」
樹が指を指した先には、俺が置いた枕がある。
そういえば昨夜、そういう約束をしたような気もする。
「そっちから破ったなら、少しくらい許される?」
ふっと笑った樹の手が、枕を超えて俺の方へ伸びてきて、そっと手を握られる。
咄嗟のことで逃げるのが遅れてしまい、樹の体温を感じる羽目になる。
「おはよ、優月。せっかく一緒に住んでるんだから、朝の挨拶して」
逃れようとするがなかなか離してくれず、これはきっと挨拶するまではこのままだと悟る。
目を逸らしながら、俯いてぶっきらぼうに応えた。
「……おはよ」
「うん」
満足したのか手が離れ、樹が起き上がる。
何やってるんだ俺は、こんな偽善者と朝から手を握って挨拶だなんて。
「熱下がったっぽいねー。よかったよかった」
「別に平気だったし」
「そうだね」
微笑む樹が携帯をチェックする。
毎朝の日課のようで、彼はいつも起きたら携帯を見ていた。
そんな彼の表情が、一瞬固まる。
基本的にはいつも笑っているから珍しい表情だ。
「優月さぁ」
そしてぽつりと呟いた。
なんとなく、雰囲気で良くないことなのかなとは感じる。
「実親に会いたい?一緒に住みたいとかある?」
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