12/17
前へ
/240ページ
次へ
やっぱり期待なんかするべきじゃないな。 裏切られた時の苦しさと虚しさがより際立つ。 一番近しい家族という存在でこれなのだから、きっと世界中全員こういうものなのだ。 とはいえ、今俺に1人で生きていく力などないのだから、 バイトして、できるだけ早くお金貯めて、一人暮らしをするまでここで辛抱するしかない。 あぁでも、そうこうしているうちにまた売られるのかな。 父さんが分かりやすく嫌な奴でよかったかもしれない。 優しいと思っていた人に捨てられるよりよほど良い。 「さぁ椎名君は帰りたまえ」 その点、樹は変な優しさがあるから怖い。 樹に捨てられさえしなければ、手に残る温もりもお粥の美味しさも、このまま持っていられる。 「……樹、もう帰って。お金は払わなくて良いから」 「あ?優月、何をお前が勝手に金払わなくて良いとか決めてんだ?」 徐に父に髪を掴まれる。 そのまま叩きつけられると思うや否や、その力がふっと抜けた。 これまで一言も喋らなかった樹の大きなため息が耳に届く。 「黙って聞いてれば、ふざけんなよ」 樹が父の手首を掴んでいる。 その力が強まったのが側から見ても分かり、父が思わずひっと呻いた。 「今優月に何しようとしました?まさか暴力振るおうとしたわけじゃないですよね? で、なに?商品?は?優月が? ムカつくことばかり言いやがって」 それは、初めて見る樹の表情だった。 目の角を立て、額に青筋が張る。 父を見下ろす目は驚くほど冷たい。 これ……まるで怒っているみたいだ。 けれど、何で怒っているんだ。 何をされてもこれまで怒る素振りを見せなかった樹が、俺を侮辱されたくらいで、なぜ。 「分かった分かった、お金は払わなくて良い。 な?これで良いだろ」 「そんなことは心底どうでも良いです。 お前みたいなやつに優月は渡しません。 親子だから、改心していて良好な関係築けるならと思って会わせただけですよ」 父が俺の髪を掴んでいた手を離すと、まるでそこを労るかのように樹がおでこに触れる。 「優月は本当にこんなやつのところにいたいの?」 樹に優しい声で喋られると、何故か甘えたくなって下唇を噛んだ。 決心が揺らぎそうになるから、もう喋ってほしくない。 いたくないと言えば、樹とあの家にまた帰ることになるのだろうか。 そうなれば、俺はまたいつ捨てられるか分からない恐怖に怯えることになる。 あぁ、生きづらい。 本当に心底、何をしても、生きづらい。 「ねぇ、どうなの」 樹の目が穏やかに俺を見ている。 まるで俺の本心の言葉を待っているようだ。 「いたくない、けど、行く場所なんか」 「うん、それで充分」
/240ページ

最初のコメントを投稿しよう!

267人が本棚に入れています
本棚に追加