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着いたのは家ではなく車を5分程走らせたビジネスホテルだった。 時間帯がまだ早いのでアーリーチェックインの手続きをしてくれたようだ。 恐らく俺が調子悪そうにしていたからなのかなとぼんやりと思う。 車に1時間乗るのは無理だと感じたのだろう。 実際、家まではもたなかったかもしれないから、休めるのはありがたいけれど。 「ほらほら、ベッドで寝てー」 「何でダブルなんだよ」 ダブルベットとは聞いていない。 これでは樹と横になれば嫌でも密着してしまう。 「ツインの部屋はアーリーチェックインできなかったから。 まぁ俺としては嬉しいけどね?」 「うるさい」 冗談を言う樹を睨むと、彼はどこか困ったように笑った。 「しんどかったね」 久しぶりに父と会ったことで、心がやたら痛んでいるのは間違いなかった。 それでも家族である以上、会わないなんて選択はできなかったし、いずれはこうなっていたと思う。 「……別に、ああいう奴なのは知ってたし」 「とはいえ家族にあんな風に言われるのはきついでしょ」 「そんなことない。平気」 実際のところは、ずっと胸がムカムカして吐き気がして気持ちが悪い。 父の声が耳に張り付いているような気がする。 俺の動画を買ったって言ってた。 嗜虐心をそそるって言ってた。 商品だって言ってたし、物だって言ってた。 そのくせ俺の方が父を捨てた、なんて。 それなのに、くたびれた父を見て救われる未来がもしあれば良いのになんて。 本当に、心底気持ちが悪い。 ふいに、正面から抱きしめられる感覚がする。 すっぽりと体が埋められ、目を見開いた。 「やめ……っ」 振り払おうとする手を抑えられ、そのままベッドに優しく押し倒される。 「触んないでって!」 両手首を抑えられて見下ろしてくる樹の目は、やたら真剣味を浴びている。 「俺は捨てないよ」 「は!?」 「優月が望むならずっとそばにいる」 いつも冗談みたいに笑うくせに、何故そんな風に言うのだろう。 ずっとなんて、何の保証もないのに。 暴れる体を力で押さえつけられるので、諦めて力を抜くと、そのまま頭を撫でられた。 「よしよし」 何なんだ、こいつは。 何で、こんなこと。 心が変に温かくて、涙が出そうだった。 信用なんかしていないし、期待なんかもうしないと決めているけれど、それでもこの瞬間だけは、こうしていたいと確かに思いながらゆっくりと目を閉じた。
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