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** やっと寝たかな。 抱きしめたまま特に何を話すでもない時間が30分以上は続き、今やっと優月の静かで控えめな寝息が聞こえてきた。 暴れるのを抑えつける形で抱きしめて寝かしつけたけれど、いつもよりは寝つきが早いから一応成功ではあるのかな。 “樹、もう帰って” そう言われた時は、内心どうしようかと思った。 もしあのまま優月が頑としてあの家に残ると言っても、父親がヤバイやつだと分かった時点で無理矢理連れ帰っただろうけれど、争うことになれば優月の意思が結局は尊重されるから、”いたくない”と本心を話してくれた時はほっとした。 しかしあいつ、いくら優月の父親だからって苦しめるようなことばかり言いやがって。 あれだけ手が早いのを見れば、何度も殴られてきたんだろうなと察しがつく。 優月の顔に目をやると、見るからに疲れ切っていた。 眠れていないのは知っているけれど、やはりクマが酷すぎるのが気がかりだ。 睡眠薬とか入れてでも寝かしてあげられた方が良いのかな。 優月はそもそも錠剤飲むのに酷い抵抗があるから、それを毎日させるのもストレスだろうしな。 考えながら見つめていると、ふいに彼の目元に涙が浮かんだ。 それは1つ溢れて、枕を濡らす。 どれだけ平気だと言っても、平気なはずがないのは分かっていた。 あの親の元で育ち、捨てられ、売られ、施設では散々な目にあい、久しぶりに再会した父は反省すらしていなかった。 こんなの、平気な人間がいるはずがない。 「……夢でなら泣けるんだな、優月」 そっと呟いて目元を指先で拭った。 あまりにも静かに泣くから、居た堪れなくなっていく。 何かすっかり、ほっておけなくなった。 施設で見かけた時からあまりに不器用で目が離せないとは思っていたけれど、 まさか自分が優月を侮辱されて制御が効かなくなるほど苛立つとは思わなかった。 どうせすぐに起きてしまってまた悪態を吐かれるのだから、今のうちにたくさん甘やかしておこうかな。 優月をこれでもかと言うほど甘やかしてやりたい欲が日に日に強まっていることは、自分でも分かってきた。 それなりに付き合ったりしてきたはずだけれど、こんな気持ちになったのは初めてな気がする。 ぎゅっと抱きしめると、優月の体温と鼓動が伝わる。 寝つく時も散々触んなって暴れてたし、起きた時にくっついていたら蹴りの1つでも入れられそうだな。 「大丈夫、ゆっくり寝るんだよ」 耳元で囁くと、優月が無意識にかほんの少しだけ身を寄せる。 寝てると大人しいけれど、静かすぎるのも心配になるななんて思いながら俺もまた眠りについていた。
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