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日記とファイルを読み進めて分かったことがいくつかある。 施設とは名ばかりの、いたのは殆どが金と引き換えに捨てられた子たちで、無理矢理性行為を行っては非合法の裏ビデオを作成していた。 世の中には様々な性癖の人がいるもので、中には暴力を受けそこを撮られていた子もいた。 この子、2番はこの事件の首謀者の子であり、戸籍も名前もない。 こんな施設で生まれ育ったのだから、教育も当然受けていない。 施設の悪事が明るみになった時この子は酷い怪我で発見され、治療のため入院する。 国すら成人しているこの子の対応には困り、結局俺の父が引き取ったようだ。 父がこの施設とどう関係していたかはまだよく分からないけれど。 日記には、一緒に住み始めてからの2番の様子が書かれており、この子のことを少しだけ理解する。 著しく体力がないこと。 それ故にやたらと眠るがすぐに起きること。 表情がなく感情が乏しいこと。 知識は殆どなく、字も読めないし書けないこと。 少食だが出されたものは何でも食べようとすること。 棚にあいうえお絵本という明らかに子ども向けの絵本があるが、もしかしてこの子のために買ったのだろうか。 「……ん」 読み進めている途中で、彼が小さく声を出す。 書いてある通り、本当にすぐ眠ってすぐ目が覚める。クマが酷いしこれで寝不足が解消できているとは思えないけれど。 「いま何時?」 「13時半」 「13……?」 「1時半」 「まだ、大丈夫」 ゆっくりと起きあがると、カーテンを少しだけ開けて窓にくっつくようにして外を見ていた。 生まれた時から外出は殆どしたことがないと書かれていた。 外の世界は気になるのだろう。 「今日は、青」 「青?」 「空の色。いつも見る、好き」 「ふーん」 タワーマンションの最上階。 空はよく見えることだろう。 戯れに隣にあぐらをかいて座る。 やっぱりとても20歳には見えない。 せいぜい高校生くらい。 喋るともっと幼く感じる。 「だったらソラで良いじゃん」 「そら?」 「名前。2番なんて呼びたくねーよ俺。 ソラでいいよ」 彼がぱちぱちと瞬きしながら俺を見つめる。 「そら……ソラ」 「気に入らない?」 「ううん、ソラ。お名前。 なんか、ここ変」 ソラが自分の胸に手を当ててぎゅっと目を瞑る。 20年名前すらなかった青年。 俺は何がしたいんだろうな。 関わらないつもりだったし、帰ろうと思っていたのに。 名前まで与えてしまったらもうどうしようもない。 「俺は仕事するから話しかけるなよ」 「……ここにいるの?」 「まだいてやるって言ってんの。 危なっかしいから」 「うん、りと、いる」 携帯を開くと、文章を書き始める。 俺はフリーランスでライターの仕事をしていた。 本当はパソコンで書く方が慣れているしやりやすい。 ノートパソコン持ってくるかなと思って、ため息を吐く。 嘘だろ俺、本当にこいつと生活するつもりなのかよ。 横目でソラを見ると、体育座りをしてじっと外を眺めている。 こいつはこのまま誰に助けを求めることもせず、嬉しいとか楽しいとか生きてきた意味とか死への恐怖さえ知らないまま死んでいくのかな。 そう思えばあまりに儚くて、胸が苦しかった。
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