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太ももに微かな衝撃を感じ、目が覚めた。 「ん……」 「てめ、何でこんな、ばか」 薄ら目を開けると、目の前の優月が眉を寄せて嫌そうな顔をしている。 「あ、優月おはよー」 優月の足が俺の太ももあたりを、げしげしと蹴っている。そんなに力はなく、痛みはない。 「抱きしめて寝ちゃってたー」 「ふざけんな……っ」 少しだけ恥ずかしそうに目を逸らす優月に、あれこんな顔これまでしてたっけと思う。 確かに嫌そうな顔ではあるけれど、それだけじゃないように見えるから思わず嬉しくもなる。 「ふふ」 「何笑ってんだよ!」 「よく寝れた?」 時計に目をやると、3時間くらい経っていた。 「……え」 優月もまた時計を見て驚いている。 3時間というとまだまだ睡眠時間としては足りないように思うが、優月は本当に眠れないからここまでまとまって眠るのは珍しかった。 色んなことがあった割にはうなされずに起きられたみたいだし、寝ている間も大人しく抱かれてくれていた。 「俺効果?」 にやりと笑うと、枕を投げられそれを掴んだ。 「違うわ!ばか!」 いつも通り悪態を吐く優月に少しは元気になったかなと思う。 「何かしたいこととかある?」 「別に。そんなのない」 優月には今娯楽というものが一切ない。 そもそも遊ぶ時間なんかあまりなかっただろうから、何が好きかもよく分からないのかもしれない。 「映画でも見よっか」 ホテルのプランでいくつかの映画は見放題になっていた。 ベッド正面にあるテレビをつけると、優月が突然流れた大きな音に一瞬だけびくっと肩を震わせる。 少し音を下げればそれは落ち着いた。 「位置的にベッドにもたれながらゆっくり見れそうだね」 「一緒に見るのかよ」 「うん、ほら、これ以上は行かないから」 枕をベッドの中央に置いてやると、観念したようにベッドボードを背に座った。 「好きなジャンルとかある?」 「別に。何でも良い」 「ホラーとかにする?」 「……っ別に怖くはないけど」 明らかに眉を寄せる優月に、あまり得意ではないのかなと思う。 怖がる優月を見てみたい気もするけれど、今日はあまり刺激しない方が良いか。 「名作って言われてるやつ適当に見ようか、これ見たことある?」 「……ない」 有名なSF映画を再生し映像が始まると、優月は体育座りをして興味深そうに画面を眺めていた。 こんな風にゆっくり映像を見ることさえあまり経験のなかったことのはずだ。 有名作品なので、俺は見たことのある作品だった。 だからこそ映画よりも優月の方を見てしまう。 真剣な目。食い入るように見つめる目が、映画を見ている時間を楽しんでいるように思える。 映画館とか行ったことあるのかな。 こんな名作さえ知らないのなら映画に触れたこともほとんどなさそうだし、きっとないだろうな。 俺は寝ないか心配だけれど、今度一緒に行ってみるのも良いなぁ。
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