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優月を見ていると何だか眠たくなってきた。 不快に思ったことは一度だってないけれど、優月が寝ないからなんだかんだ俺も睡眠不足になっている節はある。 俺にこんなに見られていることにも気付かない程、映画に集中する優月はどこか可愛くも思えた。 いつもやたら強がっているけれど、こうしていると子どもみたいだ。 ぼんやりと画面と優月を交互に見ていると、映画はクライマックスに差し掛かる。 ここまできたら終わるまでは起きておこう。 終わったら次の映画見たいだろうし、リモコンの操作方法も分からないようなら教えてやらないとな。 せっかくこんなに没頭しているのに、話しかけるのも何となく可哀想だ。 いわゆる泣き場所、感動シーンが画面では流れていた。 ロボットに人の心が芽生えて、主人公を救いながら壊れていくシーンだ。 優月は泣くのかなと興味が湧きながら名シーンを眺めた。 ここで泣かない人はいないと言われるほどのラストシーン。 感動的な音楽と共に、ロボットがバラバラに壊れていく。 その破片を握りしめ、主人公がそれを胸に。 画面が引いていき、エンドロールが流れる。 「……え、樹?」 「……っう」 「え?え?」 やばい、優月が泣くかが気になっていたのに普通に俺が泣いた。 久しぶりに見たがやっぱり泣ける。 「やべぇ感動的シーンすぎる」 ふ、と優月の口元が綻ぶ。 見たことのない柔らかい表情で、目の前の人は本当に優月なのかと疑いたくなる程だ。 優月はいつも睨んできて、世界全てを敵だと恨んでいるはずなのに。 「確かに良かったけど、何泣いてんだよ。 今日は怒ったり泣いたり、樹なんか変」 少しだけ困ったような顔だが、それはいつもの強張った表情ではない。 「優月は泣かねえの」 「泣かねーよ、じんとはきたけど」 きっと、泣くとか笑うとか感情を表現することを許されていなかったから表に出すことを忘れてしまったんだろうな。 懸命に怒りだけをぶつけて自分を守ってきたのだろうし。 「映画、たくさんあるから見たら」 「……ん」 リモコンを渡すと、悩みながらもそれを操作する。 ちゃんと操作できている、教えるまでもなさそうだ。 次の映画の途中には俺は眠ってしまっていて、 しばらくして目を開けると隣で優月も目を閉じていた。 画面ではおそらく3作品目であろう映画が流れている。 見ながらうとうとして眠れたというのなら、良いことだと思う。 いつも眠ろうとして眠れない優月は、どこか苦しそうだから。 家でも映画が見れるように設定してやるかと決意し、俺は優月に布団をかけた。
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