作戦

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「どうも、柊理都です」 渋々部屋に上がった優月へ声をかければ、彼はあからさまに目を逸らす。 俺とは挨拶する気も仲良くする気も毛頭ないらしい。 「ゆづ、ここ、りと」 それでもソラが優月の服の袖を引っ張れば、嫌そうに俺を睨む。 「優月」 ぶっきらぼうに優月が呟いて適当に床に座り込む。どうやらそれだけで自己紹介は終わったらしい。 人を全く信用していないこの感じを見れば、 酷い目に遭ってきたのだろうということはうかがえる。 「まずは泣きアニメ鑑賞会から始めようと思う! ちなみにこの前感動映画見たけど優月は泣かなかった! だから今度こそマジで泣けるやつにした!アニメの方がソラ君も見やすいだろうしね」 泣かせよう大作戦とか言っていたし色々考えてきたのだろう。 ソラもアニメを流してやれば見ているから嫌いではないと思うし、良いけれど。 「じゃあ飲み物用意するよ。 リンゴジュース、コーヒー、カフェオレ、お茶あるけどどれにする?」 「りっちゃんありがとー! 俺はアイスコーヒーにもらおうかなー優月は?」 「いらない」 「うんうん、カフェオレでよろしくー」 「いらねーって」 優月を気にかけて彼の飲み物まで頼む樹に、大切にしたいんだろうなと言うことは伝わる。 ただ、優月に入れたところで飲んでくれるのかは別の話だけれど。 「りと」 キッチンに立つ俺を追いかけてきたのか、ソラが服の端を握る。 最近こうして家の中でもついてくることが増えたような気がする。 「ソラはどれにする?」 「りとと、おんなじにするの」 じゃあリンゴジュースにするかな、と冷蔵庫から取り出しグラスへと注ぐ。 全員分の飲み物を入れていく様子を、ソラは隣でじっと見つめていた。 「そうだ、ソラ。 お手伝いお願いしてもいい?」 「う?」 「このコップ、優月に”おいしくのんでね”って言って渡してきて?」 こくこくと頷いたソラが、まるで大切な任務を任されたかのように両手でしっかりとグラスを持ち、慎重に歩き出す。 途中転んでしまわないか心配ではあったが、何とか一歩一歩進めてはいる。 優月のところまで時間をかけながら運び、ゆっくりと差し出した。 「ゆづ、おいしく、のんで?」 「え、あ……ありがとう」 樹がそんな様子を微笑ましく見つめている。 優月は困惑しながらもそれを受け取った。 ソラからもらったものは拒否できないだろうし、飲んでくれるだろう。 ソラも普段頼まれごとなどされないからか、どこか満足そうだ。
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