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「てことで度数低めの酎ハイ多めに色々もってきてみましたー!
りっちゃんにはビールもあるよ」
「なら最初に冷やしとけよ……」
呆れながら袋を奪うと、冷蔵庫の中に1本ずつ入れていく。
ソラがとてとてとやってきて俺の隣に座った。
俺の服を掴みながら缶を冷蔵庫へ入れていくところを見つめている。
「また来たの?」
うんうんと頷くソラにそっと笑いかける。
樹が用意しているのもかなり度数の低いものだし、少しの量呑んで気持ちよくなって眠るならそれはそれで良いかもしれない。
「じゃ、酒冷えるまでの間もう一本楽しいアニメでも見てようかー」
「もう泣けるアニメじゃないんだ?
樹だけ泣いちゃうもんね」
「優月バカにしてるよね?俺のこと」
樹と優月が何やら言い争いをしながら、見るアニメを選んでいる。
その間に俺は簡単なおつまみでも作ろうかな。
「ソラも皆と見ておいで」
ぎゅっと服を握る手に力がこもる。
「ソラ?」
「……分かったの」
基本的に何でも二つ返事のソラにしては、珍しい間だったなと思う。
冷蔵庫にあるもので簡単にだし巻き卵やベーコンのチーズ巻きやポテトサラダなどを作っていく。
基本的に料理は好きだし、異質なメンバーではあるけれど複数人で食べたり呑んだりするのも久しぶりでなんとなく楽しい気持ちにはなる。
背後から聞こえる声的には学校の日常を描いたアニメのようだ。
横目で見ると、ソラがソファから俺の方を見ていて驚く。
ぎゅっと唇を噛み締めるのが何かを我慢しているように見えた。
珍しい。
今までどんなアニメを流してもぼーっと見ていたのに。
ソラの中ではよほどハマらなかったのかな。
“おいで”と手招きすれば、目を細めてソラがやってくる。
表情は動いていないのに嬉しそうに見えるから不思議だ。
「ソラ、味見係」
「あじみ?」
小声で話すと、同じようにソラが小声で返す。
だし巻き卵を一口の大きさに切って口元へと持っていくと、ソラは小さな口を抵抗なく開けた。
「どう?」
「おいし」
「よし、じゃあ安心して出せるな」
樹が言ったように、確かに俺もソラへの関わり方は随分と変わった。
「うん」
穏やかな表情に見える。
生まれてからずっと痛いことと苦しいことしかなかったソラだが、それが普通などと思われては困る。
「今日はパーティーだな」
「わ」
「パーティーわかるの?」
「まえ、アニメ、やってた」
そういえば一緒に見ていたアニメに友達を呼んでパーティーをやるシーンがあった気がする。
「今日はパーティーなの、すごい」
何か樹の変な作戦から始まったわけだけれど、
ソラにとっても刺激になるだろうから良いか。
泣かせよう大作戦などと言っていたけれど、
やたら強がりに見える優月も、
ただただ救いなく最後は主人公が死んでしまうアニメを見て”良かった”なんて感覚になるソラも、泣けるようになるイメージってもてないな。
確かにこいつらって何で泣くんだろう。
手を伸ばしてくるソラに、また何か運びたいのかなと大分冷えた缶を渡してやると、1つずつ両手で持ちながら何往復もして運んだ。
運動には良いかもしれない。
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