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優月は特に表情1つ変えずにお酒に口をつけていた。
彼の場合、例え気持ち悪くなっても言ったりはしないだろうから注意深くみてあげないといけないとも思うが、その点に関しては樹がよく見ているようなので大丈夫だろう。
「ゆづ、おいし?」
「あ、あぁ、そうだな」
「うんうん」
満足したようにソラが頷く。
ソラと優月がまた会えたのも良かったと思う。
性格こそ全く違う2人のように感じるが、同じ年、同じ境遇の中で生きていた同級生のような関係だ。
優月は自分が会うことで嫌なことを思い出さないか気にしていたようだが、ソラはそんなことよりも優月に会えたことを喜んでいるように見えるし、良い関係を築いていければと思う。
ソラの事情を知らないと友達とかを作るのも困難だろうから。
つまみながら1本目のビールを飲み干し、次の缶を取りに冷蔵庫へと向かう。
皆もそろそろなくなるだろうし、2、3本持っていくかなと思いながら冷蔵庫を開けると、ソラがとてとてやってきて俺の服を掴んだ。
「なーんかさー今日ずっと思ってけど。
ソラ、後追いしてない?」
「はぁ?」
樹が一気に飲み干し、缶を振っておかわりをアピールしながら言う。
後追いって、あれだよな。
赤ちゃんが離れたくなくて親を追いかけるっていう。
「本来大切な人を実感できるようになった8ヶ月くらいで始まるんだけどさ。
ソラ君って施設生まれ施設育ちで愛情なんて当然もらえていないし、後追いなんてしてなかったと思うんだよ。
だからこそ、今りっちゃんにしてるんじゃない?」
確かに最近、何かとそばにくることは増えた。
窓の外を見ていても定期的に気にしたように俺を探すようになったし、料理していると服を握ってきたり隣に座ったりしていることもある。
いやしかし、ソラだぞ。
父さんが亡くなっても泣いてもいなかったし、確かにそばにくるけれど基本無表情。
たまたまついてきているだけで、そこまでの執着はないように思うけれど。
樹が考えたように見つめながら、”あ”と呟く。
「そうだ、りっちゃんちょっとお酒買い足してきてよ。
楽しいしこのペースだと酒足りなくなるでしょー?」
確かに足りるかは微妙なところだが、何でそんなにニヤニヤしているのだろうか。
「まぁ、別に良いけど」
「隣にコンビニあるわけでだしなんだかんだ10分もかからず帰ってこれるでしょ」
確かに1人であれば全くもって大変ではない。
「お金は出すからさ」
「いや良いよ今の酒買ってきてくれてるし。
そうだな、じゃあ買ってくるわ。
ソラ、行ってくるね」
服を握っていたソラが、俺の目を見上げて複数回瞬きをする。
ゆっくりと握っていた手をはなしたソラは、小さく「わかったの」と呟いた。
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