270人が本棚に入れています
本棚に追加
**
りと、どこにいったの……?
みんなのお話している内容は、半分くらいは分からなかった。
りとが僕にお話するときは、いつも目線を合わせてゆっくり話してくれるから分かりやすいけれど、誰かと誰かが話している時は、言葉も早いし、難しい言葉も出てきてわからないことも多い。
“ソラ、行ってくるね”
僕にほほえんでくれたりとの顔が、頭にやきついているみたいだった。
ドアの閉まる音がしてから、玄関をみる。
今からおいかけても、きっと間に合わない。
「ソラ君おいで」
いつきが呼んで、うんうんと頷く。
いつきも、ゆづも、好き。
僕のこと、優しい目で見てくれる。
なんだか頭がふわふわとしてきた。
でも気持ち悪いとかではなくて、頭がぼーっとしていくような感覚。
「ソラ、少し顔赤いけど大丈夫?」
「う?へいきなの」
ゆづが僕を心配そうに覗き込む。
何でそんな顔をしているのか分からない。
だって、何にも痛くないし、血だって流れていないのに。
「ゆづもすこし顔赤い?」
「……っ俺は赤くない」
「そうなの」
よく見ればゆづの頬もほんのり赤くなっている気がするけれど、これは気のせいなのかな。
「気分良い分には良いけど、気分悪い時はちゃんと言えよな」
「はいはい、なんないから大丈夫だってば」
いつきがゆづの頭に触れようとして、それをゆづの手が払う。
でもゆづの顔は、嫌そうには見えない。
嫌じゃないのにどうして嫌ってするのかな、施設をでてから、分からないことはたくさん。
僕は、頭をよしよしってされるのは好きだった。
りとがいつもしてくれるの。
心がじんわりして、なんだか知らないような気持ちになる。
いつきとゆづがいるこの空間は好きだけれど、でも、やっぱり何かが足りない。
「……りと」
呟くと、玄関へと向かった。
そこに座り込めば、いつきが肩から毛布をかけてくれる。
「りと、いないね」
「うん、いないの」
「どんな気持ち?」
どんな、気持ち。
自分の胸にそっと手をあてる。
これまでなったことのない気持ちな気がする。
「言葉にしてみて」
「うー……」
少し考えてから、口を小さく開く。
「ドア、あくの、待ってるの」
「うん」
「ドアあいたら、またここにいてくれるの」
「うん、だからここで待ってるのかな」
いつきの言葉が、胸にスッと落ちる。
「ソラ君さぁ、理都がこのまま帰ってこなかったら、やだ?」
最初のコメントを投稿しよう!