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「ほら、見ろよあれが雪」 りとが指を指した先は、窓だった。 はらはらと空から白いものが降っている。 「……わ」 思わず駆け寄った。 窓に手をつくと、そこはとても冷たい。 「せめて毛布羽織って見ろ」 もう一度肩から毛布に包まれる。 「これ、なに、これ、はじめてみた」 「だから雪だって」 「ゆき」 雨も同じように降ってくるけれど、全然違う。 まるで白いまんまる同士がお話ししながら降りていっているみたいに、ゆっくりとした速度。 「あれ、触ったらどうなるの?」 「消えちゃうな」 「みなとみたいに?」 りとが僕の隣に座って、一緒に外を眺める。 「ソラさ、父さん……湊いなくなって、寂しいんだろ」 「寂しい?」 「また会いたいとか、話したいとか思わない?」 何でそんなことを聞くのだろう。 みなとのことを考えたら何だが胸がぎゅっとなるような気はするけれど、 僕が何かを思うこと自体無駄なのに。 “私は病気でね。君とは長くいられない。 だけど君には生きていてほしい。 きっといつか、生きてさえすればいつか……。 身勝手で悪いけどね。 これは命令だよ、ご飯食べて、生きるんだ” “う?うん、分かったの” みなとの言葉は、これまで浴びてきたどれとも違った。 変な人だなとは思っていたけれど、何を望んだところでどうにかなるようなものでもないことはよく知っているから。 「……みなとはいなくなっちゃったから。 もう仕方ないの」 「そうやって諦めてきたんだなこれまで。 いつかちゃんと、心が機能すると良いな」 りとは、難しいことを言う。 僕の心がどう動いたところで、何かが変わるわけでもないのに。 幼い頃から痛いことしかされてこなかった。 遠い記憶に、痛いのは嫌だって泣き叫んだこともあったような気もする。 でも何も変わらなかったし、僕も周りもそうされていたから、いつしか痛いのが普通なのだと分かるようになった。 僕がどう思ったって何を言ったって、されることは同じ。 「後ろに枕置いておくから」 僕が倒れた時のためのものかな。 今日はなんだかいつもより眠っている気がするし眠らなくてすみそう。 じっと降り頻る雪を見つめる。 毛布のおかげで、いつの間にか震えはおさまっていく。 次第にあたりが暗くなっていき、夜が来るのだと分かる。 夜なのに、空が明るい。 雪が明るくしているのだろうか。 初めて見る景色から目が離せず窓にそっと触れながらいつまでもそれを眺めていた。
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