月の光の導き

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月の光の導き

 和泉は、仏間を出た新を、廊下で引き止める。 「あの…」  新は、投げかけられた言葉に足を止める。  どうしてと、言葉を続けようとした和泉に、  新は、その疑問の答えを聞かせてくれた。 「俺ね、早雲さんに助けられたんだ」 「…助けられた?」 「そう。和泉ちんみたいに、友達、恋人、親兄弟。何もかもに裏切られて。橋の上から飛び降りようとしてたら、声、掛けられた」  それは、内容こそ違えど、和泉の体験そのままだった。 「俺の話を聞いてくれて…」 『おお…。波乱万丈だなぁ。よし、おいちゃんが今日は労ってやる』  そう言って早雲は、新を自宅に招き、一汁三菜の食事を振舞ったという。 「その時の飯が美味くてね…。その日から早雲さんに、古書のノウハウを学んだんだ」  新は、早雲の導きを糧に会社を興し、  今では古書において、新の店に無い書物はない、と言われるほど。  最近は、顧客の要望で、海外の古書も扱っている。 「そんな時に、早雲さんから手紙が来たんだ」  和泉も読んだあの手紙だ。 「俺と全く同じ境遇の、和泉ちんの心を解せなかった…。早雲さん、それがこの世の心残りだって」 「…」 「だから頼まれた。亡くなる前日に。普通に電話をしてきて、飄々とお願いされたんだ」 「そうなんですか?全然知らなかった…」  和泉は、早雲の想いに気付く。  そんなふうに、孤独に生きなくていい。  自分を理解してくれる、そんな人は沢山いる。  だから、独りで傷つかないで欲しい。  早雲の心からの願い。 「和泉ちん?早雲さんが店の名前にを使った意味、知ってる?」 「いえ、知らないです」  新は、その意味を伝える。 「月華ってね、って意味がある」  夜の闇を照らす月光。  月の導き。 「早雲さんは、訪れる人たちの導きの光なんだ」  ああ…。分かるよ、それ。  和泉が初めて降り立った駅。  月夜の晩に見た、あの温かな光。  それはまさに、和泉の冷えた心を温める光だった。  そしてその光が、早雲と和泉を繋ぎ合わせ、  その繋がりがまた、新との繋がりへと広がっていく。  新は、和泉に向き直り、告げる。 「、本当は君をここに残して行きたくないんだ。だけど、これは俺の生業だから仕方がない。君の心を解せなかったのは、俺も本当に心残りだ。でも、また来るよ。しつこく、何度でも。君が俺を信じてくれるまで」 「…げっ」  ま、いつになるかは分からないけどね?  そう付け加え、新は帰っていった。
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